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「とうちゃーく」
隣でバイクのエンジンを切って、アオバが伸びをする。
ちょうど空が白み始めた頃、俺達は千葉県の九十九里浜・片貝中央海岸に到着した。
九十九里浜は、関東の初日の出スポットとして人気の場所の一つだ。今回はアオバの希望で、この場所を選んだ。
駐車場から辺りを見渡すと、初日の出を拝もうと、浜辺に多くの人が集まっていた。
「海岸は広いからね。早くいいポジション探しに行こう」
「うん」
頷いてヘルメットを脱ぐと、冬の冷たい潮風に頬の産毛が逆立った。
去年の今頃は、どうしていたんだっけ。
ああ、そうだ。確かアオバと一緒に爆睡していた。
付き合っていた女の子にフラレて、クサクサした気分であぐらをかいていた。そこに突然アオバがやってきて、二人でだらだらと無為に年越しの夜を過ごしたんだ。
初日の出を見に行こう! なんて言い合ったのに、結局朝寝坊をして、目が覚めたら昼だった。
そのあとは、どうしていたんだっけ。
ああ、そうだ。確か海を見に行った。
誰もいない、寂しい埋立地の海岸で、二人で肩を並べてケーキなんか頬張ったんだ。
あの時俺は、アオバと初日の出を見られなかったことが、無性に残念でならなかった。今になって思えばその気持ちだって、俺なりのアオバへの愛情のカケラだった。
俺は二人で初日の出を見たかったんだ。
――こんな風に、肩を並べて。
水平線の向こうが燃えるように輝く。
周囲のあちこちから、感嘆の声が聞こえる。
顔を出した太陽の眩しさに、少しだけ目を細めながら、俺とアオバは黙って海を見つめていた。
太陽なんて毎日昇るのに、こんなに美しい朝を迎えるのは、生まれて初めてのような気がしてくる。
隣りに立つアオバの手の甲が、そっと俺の手の甲に触れた。
くすぐったくなるような、微かな温もり。
海面に反射した太陽が、ゆらゆらとオレンジ色の光の川を作っている。
隣を見ると、アオバの頬もオレンジ色に染まっていた。
きらきらと輝く瞳が俺を見つめ、きれいな弧を描いていた。
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