最終話:夢の裏側【side Tetsu】

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 * * * 「とうちゃーく」  隣でバイクのエンジンを切って、アオバが伸びをする。  ちょうど空が白み始めた頃、俺達は千葉県の九十九里浜・片貝中央海岸に到着した。  九十九里浜は、関東の初日の出スポットとして人気の場所の一つだ。今回はアオバの希望で、この場所を選んだ。  駐車場から辺りを見渡すと、初日の出を拝もうと、浜辺に多くの人が集まっていた。 「海岸は広いからね。早くいいポジション探しに行こう」 「うん」  頷いてヘルメットを脱ぐと、冬の冷たい潮風に頬の産毛が逆立った。  去年の今頃は、どうしていたんだっけ。  ああ、そうだ。確かアオバと一緒に爆睡していた。  付き合っていた女の子にフラレて、クサクサした気分であぐらをかいていた。そこに突然アオバがやってきて、二人でだらだらと無為に年越しの夜を過ごしたんだ。  初日の出を見に行こう! なんて言い合ったのに、結局朝寝坊をして、目が覚めたら昼だった。  そのあとは、どうしていたんだっけ。  ああ、そうだ。確か海を見に行った。  誰もいない、寂しい埋立地の海岸で、二人で肩を並べてケーキなんか頬張ったんだ。  あの時俺は、アオバと初日の出を見られなかったことが、無性に残念でならなかった。今になって思えばその気持ちだって、俺なりのアオバへの愛情のカケラだった。  俺は二人で初日の出を見たかったんだ。  ――こんな風に、肩を並べて。  水平線の向こうが燃えるように輝く。  周囲のあちこちから、感嘆の声が聞こえる。  顔を出した太陽の眩しさに、少しだけ目を細めながら、俺とアオバは黙って海を見つめていた。  太陽なんて毎日昇るのに、こんなに美しい朝を迎えるのは、生まれて初めてのような気がしてくる。  隣りに立つアオバの手の甲が、そっと俺の手の甲に触れた。  くすぐったくなるような、微かな温もり。  海面に反射した太陽が、ゆらゆらとオレンジ色の光の川を作っている。  隣を見ると、アオバの頬もオレンジ色に染まっていた。  きらきらと輝く瞳が俺を見つめ、きれいな弧を描いていた。
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