最終話:夢の裏側【side Tetsu】

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 目的地に到着するまで、そう時間はかからなかった。  東金(とうがね)市内の田園風景の中を走り抜けると、俺達は古めかしい一軒家の前でバイクを停めた。 「てっちゃん、こっちに駐車して」  アオバに手招きされ、言われるがままにバイクを押していく。  ――ここがアオバの実家か。  家の敷地内には大きなガレージがあった。その手前の空いたスペースに、緊張しながらバイクを駐車する。  ガレージの方を見ると、中に車と、カバーの掛かったバイクが置いてあった。  カバーの下には、一体どんなバイクが眠っているんだろう。ゴツゴツとしたそのシルエットを眺めていると、アオバが近づいてきて、カバーに手を掛けた。 「これ親父のバイク。見る?」  手品のように、銀色の防火布地がさっとめくられる。 「こ、これは……」  そこに鎮座していたのは、排気量1300ccの大型ネイキッドバイクだった。  その重量感と芸術的流線型に圧倒される。  黒いボディはピカピカに手入れされていて、さすがアオバの親父さんのバイクだ……と、俺は妙に感心してしまった。 「格好良いでしょ」 「うん……すごくかっこいい」  呆けたように呟いてから、俺はハッとなった。 「っていうか、その前に挨拶挨拶! ご両親どこ?!」 「いやー、エンジンの音聞いたら家から出てくるかと思ったんだけど……おかしいな」  アオバはポケットからスマホを取り出すと、「あっ」と目を丸くした。 「今、お袋からメールの返事来てた……今日は夫婦揃って、朝から東京の明治神宮に初詣に行ってるんだって。その後は一日中、夜まで都内で遊んでくるって」  それを聞いた俺は、脱力してヘナヘナとその場にしゃがみこんでしまった。  深い溜息をつく。肩透かしを食らったというよりは、内心ホッと胸を撫で下ろしている自分がいる。 「……じゃあちょうど、東京から来た俺達と入れ違いだったんだな」 「そうみたいだね。まあいいや。誰もいないけど、家上がってって」 「いいのかよ?」 「いいよ。お袋が『冷蔵庫においなりさんが入ってるから食べてって』だってさ」  リッターバイクに乗っている親父さんに、息子の友達に気さくにおいなりさんをごちそうしてくれるお袋さん、か。  突然の訪問で入れ違いになってしまったけれど、アオバのご両親と、ちゃんと顔を合わせてみたかったような気もしてくる。  アオバに続いて、俺は玄関の扉をくぐった。  静まり返った家の中に向かって、「おじゃまします」と小声で言って。
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