第二話:セルフステア【side Aoba】

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 通勤中のことだった。  朝の爽やかな日差しの中、オレの数メートル先を長身の男が歩いている。  丈の短いMA1を羽織って、その下にはタイトなジーンズを履いている。しっかりと筋肉のついた太ももに、小さい尻。スポーツで鍛えられた体、という感じがする。  あれはきっとサッカーだな。うん。  後ろを向いているから、どれぐらいの年齢の男かは分からない。でも雰囲気はやや若い。  きっと彼はかつてサッカー少年で、泥まみれになってコートを走って、仲間と一緒に美しい汗と涙で頬を濡らした経験があるに違いない。  ――なんて、想像しすぎか。  オレが目の前の男をしげしげと眺めているのには、理由がある。その後ろ姿のシルエットが、てっちゃんに似ていると思ったからだ。  てっちゃんもあんな感じの、引き締まった脚をしているんだ。  顔の方はどうだろうか? ちょっと見てみたくなった。  幅4メートルあるかないかぐらいの、歩道のない道路だった。オレは後ろから車が来てないことを確認してから、反対側の路肩に移り、早足に歩いた。そして男を追い越す時にさり気なく、右後方に視線をやった。  その瞬間、体の左半分に衝撃が走った。  ゴンッという鈍い音が頭の中に響いて、立ち止まる。  ハッとなって見上げた。目の前に、電柱がそびえ立っていた。 「う、嘘だろ……」  動揺して、思わず呟く。  視界の隅で、てっちゃんに似た後ろ姿の男が、ぐんぐん遠ざかっていく。 「こんな漫画みたいなことってある?」  よそ見をしながら歩いていたせいで、電柱にぶつかるだなんて。  こめかみの近くがズキンと痛む。何かがツーっと頬を伝う感覚があった。  手で触れて見てみると、指先に血が付いていた。――目眩がした。
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