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* * *
それからアオバは、子供みたいに声を弾ませながら、家の中の隅々まで俺を案内してくれた。
客間に屋根裏、書斎に風呂場――そして最後に足を踏み入れたのは、アオバが昔使っていたという子供部屋だった。
「昔はこの辺に、学習机があったんだ。今は処分しちゃったけど」
「へー……」
「散らかしてたなー、いつも」
アオバは部屋のあちこちを指差して、手振り身振りで説明する。
俺は部屋の真ん中でくるりと回転しながら、部屋中を見渡した。
俺の知らない、アオバの青春時代がここにあったんだ。そう思うと、不思議な気分になっていた。
「……なんだか不思議だな。オレの子供部屋にてっちゃんがいるなんて」
俺の心を読んだかのような呟きに、ハッと振り返る。
それと同時に、伸びてきた手にグッと抱き寄せられ、俺はアオバの温かい胸の中に収まった。
吐息がかかる程の距離で、ドキッとするくらい熱い眼差しが俺を見つめていた。
思わず声が震えてしまう。
「ばか、やめろよ。お前の実家なのに」
「……ごめん」
謝りつつも、アオバは俺を離さず、ごつんと額と額を擦り付けてくる。
「だってさあ……」
「なんだよ?」
「こんなこと言ったら、オレばっかり先走ってて、キモいだけかもしれないんだけど――」
少し言い淀んでから、アオバはぽつりぽつりと続けた。
「今日はさ、『友達だよ』って言って紹介する気でいたんだ。本当に。でも、今こうしていたら……いつか両親に、てっちゃんのことを『オレのパートナーです』って、正直に紹介できたらいいなって……そんな気持ちになったんだ」
「……」
アオバは顔を真っ赤にして、もう一度俺の体をギュッと強く抱き締めた。
俺はその背を撫でながら、おずおずと口を開いた。
「あのさ、アオバ。今更改まってこんな事聞いて悪いんだけど――」
「何?」
「アオバって、恋愛対象は完全に男だけなの? 昔から?」
そう尋ねると、アオバは俺の肩に顔を埋めたまま、コクンと頷く。
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