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「親や兄弟は、それ知ってるのか?」
「……まだ誰も知らない」
「そっか……」
アオバは俺の肩を両手で掴んで、真剣な目で言った。
「親に紹介したいなんて思ったの、てっちゃんが初めてなんだ」
――ドキンと胸が高鳴る。
「今まではさ、誰かに自分を理解して欲しいとか、解ってもらおうとか、そんなこと全然思わなかったんだ」
「……」
「そんなこと、どうだっていいやって……適当に調子よく、周りの人の平穏を乱さないように上手く生きていけたら、それでいいやって思ってたんだ」
「……」
「だけどいつかはオレ、もう少しだけ正直になりたいな。そんで堂々と、てっちゃんと一緒にいたい。今はそう思う」
アオバはどうして俺のことを、こんなに想ってくれるんだろう。
ジーンと震えるような甘い胸の痛みに耐えながら、俺はアオバを見つめた。
「じゃあ、いつか……本当のこと話せるといいな」
「うん」
そう言って、俺達は引き合う磁石のように、唇と唇を重ねていた。
俺の自制心のタガは、いとも簡単に外れてしまった。
「……ごめん、お前の実家なのに」
謝ると、アオバは「いいよ」と言って、もう一度俺の唇を吸った。
「てっちゃん、いつか言ってただろ?」
「何?」
「実家を離れて東京に出てきて、ひとりぼっちになったら気が楽になったって」
「……うん」
鼻先の付く距離で、アオバはささやく。
「オレも同じだったよ」
そして俺を抱き締めたまま、切なくなるような笑顔を咲かせた。
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