最終話:夢の裏側【side Tetsu】

11/15

483人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「親や兄弟は、それ知ってるのか?」 「……まだ誰も知らない」 「そっか……」  アオバは俺の肩を両手で掴んで、真剣な目で言った。 「親に紹介したいなんて思ったの、てっちゃんが初めてなんだ」  ――ドキンと胸が高鳴る。 「今まではさ、誰かに自分を理解して欲しいとか、解ってもらおうとか、そんなこと全然思わなかったんだ」 「……」 「そんなこと、どうだっていいやって……適当に調子よく、周りの人の平穏を乱さないように上手く生きていけたら、それでいいやって思ってたんだ」 「……」 「だけどいつかはオレ、もう少しだけ正直になりたいな。そんで堂々と、てっちゃんと一緒にいたい。今はそう思う」  アオバはどうして俺のことを、こんなに想ってくれるんだろう。  ジーンと震えるような甘い胸の痛みに耐えながら、俺はアオバを見つめた。 「じゃあ、いつか……本当のこと話せるといいな」 「うん」  そう言って、俺達は引き合う磁石のように、唇と唇を重ねていた。  俺の自制心のタガは、いとも簡単に外れてしまった。 「……ごめん、お前の実家なのに」  謝ると、アオバは「いいよ」と言って、もう一度俺の唇を吸った。 「てっちゃん、いつか言ってただろ?」 「何?」 「実家を離れて東京に出てきて、ひとりぼっちになったら気が楽になったって」 「……うん」  鼻先の付く距離で、アオバはささやく。 「オレも同じだったよ」  そして俺を抱き締めたまま、切なくなるような笑顔を咲かせた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

483人が本棚に入れています
本棚に追加