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* * *
一日を終えて、アオバと俺は東京への帰路についた。
通り過ぎていく景色の中で、ブラッドオレンジのような太陽が、遠いビルの影に沈みかけている。
「てっちゃん。オレ、もう一箇所寄りたい所があるんだけどいい?」
アオバにインカムで打診され、オレは心の中で身構えた。
「寄りたい所って……」
「今度はてっちゃんを困らせるような場所じゃないから、安心してよ」
アオバは笑いながら、ウィンカーを出した。ちょっとドキドキ、そして冷や冷やしながら俺もそれに続いた。
浦安市内の工業地帯の中を駆け抜け、俺達は東京湾に突き出た埋立地の最果てに辿り着いた。
夕日はあっという間に姿を隠し、周囲は薄暗くなり始めている。
アオバに導かれるまま寂れた一本道を通り抜けると、道の行き止まりには白い電波塔がぽつんと佇んでいた。
その真下に停車し、アオバはすぐ近くにある小さな東屋を指差した。
「ここね、そこの東屋から見える夕日が綺麗なんだって」
「もう夕日沈んじゃったけど……」
「そだね、それはちょっと残念だった」
アオバは苦笑いしながら、ヘルメットを脱いだ。
「てっちゃん、こっち来てみ」
俺も脱いだヘルメットをハンドルに引っ掛けて、手招きするアオバを慌てて追いかけた。
アオバが入っていったのは、東屋ではなく電波塔の裏側だった。
枯れ草に囲まれたコンクリートの小道を進んでいく。俺達が歩いているのは、どうやら防波堤の段差の上みたいだ。
左側には東京湾が広がっていて、段差の下のコンクリートの縁に、数メートル置きに何人かの釣り人が並んでいる。
盆も正月も関係なく釣りをしている彼らに、ほんのりとシンパシーを感じながら歩いていると、突然歩みを止めたアオバの背にぶつかった。
「あれ、見て」
アオバの隣に並び、横顔をちらりと見てから、俺は指が示すその先に視線を向けた。
「わあ……」
思わず溜息のような声が漏れた。
海を挟んだすぐ向こう側には、舞浜にある『夢の国』と言われるテーマパークの明かりが浮かんでいた。
濃紺色に染まり始めた空の下で、人々の夢の時間が、宝石箱のようにキラキラと輝いている。
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