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「一度てっちゃんと一緒に来たかったんだ。ここ、いいでしょ? 静かだし」
「うん……」
俺は自分で思っているよりも遥かに、その光景に感動していたのかも知れない。
言葉数少なく佇んでいると、俺の邪魔をしないようにと思ったのか、アオバも沈黙し始めた。
そうやってしばらくの間、俺達は心地よい静けさの中で、海風に吹かれていた。
「……今度、アオバを俺の実家にも招待するよ」
俺は視線を海の向こうに向けたまま、ぽつりと言った。
「俺が顔見せたら、きっと母ちゃんも喜ぶと思うし」
「……オレのことは、黙っててもいいからね?」
「うん……でも、俺もいつか、本当のこと話したい。家族と本音で話せるようになりたい――」
アオバを振り返り、俺は力強く言った。
「お前が頑張るなら、俺も頑張るよ」
アオバは優しく微笑んで、俺の頬を撫でた。
「ありがとう、てっちゃん。……大好きだよ」
「俺も好きだ」
そう言った瞬間、アオバの目が大きく見開かれた。
「アオバが好きだ……」
アオバの胸に手のひらを添えて、俺はゆっくりと繰り返した。
青い薄闇の中で、アオバの目がキラリと光る。
その光の源は、涙のように見えた。だけど、それを確認する間もなく、俺は思い切り抱き締められていた。
固く抱き合って、高鳴る胸の鼓動を分かち合う。
堤防の下の釣り人が、後ろを振り返りませんように。
アオバの体温の心地よさに身を委ねていると、俺もなんだか、もらい泣きをしてしまいそうになった。
「好きだ」と、俺はアオバの前で初めて口にした。
たったの三文字に、ありったけの想いを込めて。
鼻の奥がツンと痛い。俺はやっと言葉にすることが出来たんだ――俺の中に渦巻く、アオバへの感情を。
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