第二話:セルフステア【side Aoba】

3/11
482人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 * * * 「アオバ……どしたの、そのオデコ?」  てっちゃんは、こめかみに絆創膏を貼ったオレの顔を見てちょっと笑った。  仕事を終えてからてっちゃんと合流し、居酒屋の席についてすぐのこと。顔を合わせた時から、ずっとチラチラとこの額を気にしている様子だった。 「いいからいいから」  オレは適当に誤魔化して、メニュー表をパラパラとめくった。  てっちゃんが何か言おうと口を開きかけた時、ちょうど店員さんがビールを持ってきた。 「お待たせいたしました、生中です」 「ハイ、ありがとうございます」 「お通し、すぐにお持ちいたしますね」  店員さんに会釈してから、オレはてっちゃんに向かってジョッキを掲げた。  てっちゃんもニッコリと白い歯を見せて、ジョッキを手にする。 「てっちゃん、再出発おめでとう!」 「ありがとう! よかったァ本当に」  ガツンと乾杯する。  てっちゃんは本当に嬉しそうに、安心したような顔でビールを一気に喉に流し込んだ。  オレはその上下する喉仏に目を細めながら、ちびちびとジョッキを傾けた。  去年、勤め先の会社が倒産してから、ずっと就職活動を続けていたてっちゃん。年が明けて早々、年末に面接を受けていた印刷会社から内定の連絡をもらえたと、てっちゃんは真っ先にオレに報告してくれた。  今日はそのお祝いの飲み会なんだ。 「頑張ってな」 「おう、まずは環境に慣れるまでが大変だな」 「印刷機の方は大丈夫そう?」 「うん、一応扱ったことがあるやつだったから」 「そっか。じゃああとは、嫌な奴がいなけりゃいいけど」 「本当、それなんだよな。ちょっとくらい仕事がキツくても、人間関係が良ければ我慢できちゃったりするもんなあ」  てっちゃんはまたぐいっとジョッキをあおって、 「潰れなきゃいいなあ、次んトコは」  と苦笑いした。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!