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「アオバ……どしたの、そのオデコ?」
てっちゃんは、こめかみに絆創膏を貼ったオレの顔を見てちょっと笑った。
仕事を終えてからてっちゃんと合流し、居酒屋の席についてすぐのこと。顔を合わせた時から、ずっとチラチラとこの額を気にしている様子だった。
「いいからいいから」
オレは適当に誤魔化して、メニュー表をパラパラとめくった。
てっちゃんが何か言おうと口を開きかけた時、ちょうど店員さんがビールを持ってきた。
「お待たせいたしました、生中です」
「ハイ、ありがとうございます」
「お通し、すぐにお持ちいたしますね」
店員さんに会釈してから、オレはてっちゃんに向かってジョッキを掲げた。
てっちゃんもニッコリと白い歯を見せて、ジョッキを手にする。
「てっちゃん、再出発おめでとう!」
「ありがとう! よかったァ本当に」
ガツンと乾杯する。
てっちゃんは本当に嬉しそうに、安心したような顔でビールを一気に喉に流し込んだ。
オレはその上下する喉仏に目を細めながら、ちびちびとジョッキを傾けた。
去年、勤め先の会社が倒産してから、ずっと就職活動を続けていたてっちゃん。年が明けて早々、年末に面接を受けていた印刷会社から内定の連絡をもらえたと、てっちゃんは真っ先にオレに報告してくれた。
今日はそのお祝いの飲み会なんだ。
「頑張ってな」
「おう、まずは環境に慣れるまでが大変だな」
「印刷機の方は大丈夫そう?」
「うん、一応扱ったことがあるやつだったから」
「そっか。じゃああとは、嫌な奴がいなけりゃいいけど」
「本当、それなんだよな。ちょっとくらい仕事がキツくても、人間関係が良ければ我慢できちゃったりするもんなあ」
てっちゃんはまたぐいっとジョッキをあおって、
「潰れなきゃいいなあ、次んトコは」
と苦笑いした。
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