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「失礼します」
と、店員さんがテーブルにお通しを置く。
鳥のささみと水菜を胡麻だれで和えたようなものと、ナスの煮浸しが小皿にちょこんと乗っている。
それを箸でつまんで口に運び、てっちゃんが気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「いやー、でもこれでアオバに引け目感じなくて済むよ」
オレはその言葉に少し驚いて、てっちゃんの顔をまじまじと見つめた。
「なに、引け目感じてたの?」
「ちょっとね」
てっちゃんは箸を置き、ジョッキの側面についた雫を指で何度もなぞった。
「だって友達がしっかりやってんのに、俺ばっかりいつまでもグズグズしてたら、格好悪いじゃん」
ぼそっと呟くように、だけど今はスッキリと晴れやかになった表情で言う。
プライドというか意地というか。てっちゃんは、そういうものを大事にしているんだな。それはオレの中にも、ひっそりと存在しているものだけど。
いいな、と思った。オレはてっちゃんのそういうところに、グッときていた。
「……あ、悪い。トイレ行ってくる。注文あったら勝手に頼んでいいから」
てっちゃんは席を立ち、小さく手を上げて、くるりと背を向けた。
その後ろ姿。広い背中、小さい尻、引き締まった太もも。
あの脚で、いつもニーグリップ(注:バイクで走行中に、燃料タンクを内股で挟んで車体を安定させること)してんだな。そう思うと――率直に言えば、オレはムラムラしていた。
オレの腰もグリップしてくんねえかな……とオヤジ臭いことを考えながら、オレはジョッキをあおった。
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