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最近、一年が過ぎるのが早く感じる。あっという間に大晦日だ。
今年は特に色々あったんだ。しかも年末になってから、押し寄せるように次々と。
今年も実家には帰らない。
帰りたくなくて、「忙しい」と嘘をついた。
卑怯にも、俺は時々この手を使うんだ。
やることがあるようで無いようで――本当は、そんな年の瀬を過ごしているんだけど。
とにかく今しみじみと思うのは、ひとりきりは寂しくて、それでいて気楽だってこと。
俺はきっと元々、誰かと一緒にいることに向いていない。
ピーッとヤカンの沸騰する音がする。
俺はテレビの前を離れ、キッチンへ行った。
ガスを止め、マグカップにインスタントコーヒーの粉を入れてお湯を注ぐ。スプーンでくるくるとかき混ぜると、ホッとするような香ばしい香りが鼻孔をくすぐった。
背後でどっと芸人の笑い声が沸いた。どのチャンネルも年末特番で盛り上がっている。1K一人暮らしの部屋も、こうしていれば賑やかだ。
マグカップを持ってテレビの前に戻ると、パーカーのポケットが振動した。スマホにメッセージだ。
――きっと彼女だ、そうに違いない。
そう思って、慌てて画面を見た。だけど、そこに表示されていたのは彼女の名前ではなかった。
〈急に暇になっちゃった〉
というメッセージと共に、呑気な絵文字。差出人の名は〈田中青馬〉
なんだ、こいつか……と思ったら、あぐらをかいた足の上に、スマホをぽろりと落としてしまった。
いや、ガッカリなんて言ったらこいつに悪い。心のどこかに、何か淡い期待を抱いていた俺の方が悪いんだ。
溜息をついて、俺はそれからぽつぽつと返信を打ち込んだ。
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