第一話:失恋記念日【side Tetsu】

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 最近、一年が過ぎるのが早く感じる。あっという間に大晦日だ。  今年は特に色々あったんだ。しかも年末になってから、押し寄せるように次々と。  今年も実家には帰らない。  帰りたくなくて、「忙しい」と嘘をついた。  卑怯にも、俺は時々この手を使うんだ。  やることがあるようで無いようで――本当は、そんな年の瀬を過ごしているんだけど。  とにかく今しみじみと思うのは、ひとりきりは寂しくて、それでいて気楽だってこと。  俺はきっと元々、誰かと一緒にいることに向いていない。  ピーッとヤカンの沸騰する音がする。  俺はテレビの前を離れ、キッチンへ行った。  ガスを止め、マグカップにインスタントコーヒーの粉を入れてお湯を注ぐ。スプーンでくるくるとかき混ぜると、ホッとするような香ばしい香りが鼻孔をくすぐった。  背後でどっと芸人の笑い声が沸いた。どのチャンネルも年末特番で盛り上がっている。1K一人暮らしの部屋も、こうしていれば賑やかだ。  マグカップを持ってテレビの前に戻ると、パーカーのポケットが振動した。スマホにメッセージだ。  ――きっと彼女だ、そうに違いない。  そう思って、慌てて画面を見た。だけど、そこに表示されていたのは彼女の名前ではなかった。 〈急に暇になっちゃった〉  というメッセージと共に、呑気な絵文字。差出人の名は〈田中青馬(たなかあおば)〉  なんだ、こいつか……と思ったら、あぐらをかいた足の上に、スマホをぽろりと落としてしまった。  いや、ガッカリなんて言ったらこいつに悪い。心のどこかに、何か淡い期待を抱いていた俺の方が悪いんだ。  溜息をついて、俺はそれからぽつぽつと返信を打ち込んだ。
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