第四話:傷だらけのライダー【side Aoba】

2/9
480人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 4月も半ばに差し掛かった。  来月頭はゴールデンウィーク。有給を駆使して、4月下旬から超大型連休になる人もいるらしい。オレは今のところ平日は律儀に働く予定でいるけど。  オレは今、ゴールデンウィークに計画している旅行の為に、準備を整えているところだ。  てっちゃんとのバイクの旅は、憲法記念日、みどりの日、こどもの日の3日間で決行することに決めた。  てっちゃんの方から誘ってくれたってことに、オレは猛烈に感動していた。  だからこの旅が楽しみで仕方がなくて、今から少しずつ色んな準備を整えているんだ。  何度も打ち合わせという名の飲み会を重ね、計画はだいたい固まった。  といっても連休の影響による渋滞や、下道だけを使うという点を考慮すると、結局東京を中心にぐるぐると周辺の県を走るしかなさそうなんだけど。  一日目は東京から埼玉を突っ切って、長野の八ヶ岳の辺りまで。  二日目で静岡と神奈川の境目、熱海界隈まで降りる。  そして三日目に海沿いを走って東京に戻ってくる。  だいたいこんなコース。  てっちゃんは最初「長野か……俺の実家、小諸(こもろ)なんだけど」とか「関東から離れたい」とか、ごちゃごちゃ言っていた。  お前が高速道路に乗れないせいだろ! ……なんて、非紳士的なことは言わないよ。  そりゃ日数を増やしたり、一晩じゅう走り続ければ、下道オンリーでももっと遠くまで行けるんだろうけど。  オレは無理をしないことを提案した。  ゆったりトコトコ走ろう。  気ままな一人旅ならともかく、初めての二人旅で無理するのは、喧嘩の原因だもの。急ぐ旅でもないしね。  それにオレ、この旅はてっちゃんとの絆を深めるチャンスだと思ってる。  てっちゃんとはお互いの家に何度も泊まっているし、その度に添い寝までするような仲だけど、旅はやっぱり特別なものだ。  旅は男の友情を深めてくれる。  いつもと違う風景の中で共に時間を過ごし、数百キロの道のりを、ひとつの風になるんだ。これってすごく素敵なことだ。  それになにより、アレだ。一緒に温泉に入るわけだ。  てっちゃんと一緒に風呂に入ったことは、今までに一度も無い。裸なんて当然見たことがない。  これはビックイベントじゃないか。  だから、バイクを降りてまったり過ごす時間も、できるだけ多く取りたいのだ。  いや、てっちゃんの裸体を見たからといって、だから何だって話なんだけど。  思い出だよ、思い出。ハハハ……。  そんなわけで、今日は会社帰りにバイク用品の店に行って、色々と買い物をしたんだ。  袋を開けて買ってきたアイテムをローテーブルの上に並べていると、スマホが震えた。  見ると、てっちゃんから連絡が来ていた。 〈今週の土曜日ヒマ?〉  オレはメッセージの返信を打たずに、勢いでてっちゃんに電話をかけた。  しばらくコールが鳴って、てっちゃんの怠そうな声が聞こえた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!