第四話:傷だらけのライダー【side Aoba】

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『……もしもし?』 「ヒマにきまってんじゃんッ!」 『そうか。わざわざ電話かけてきてどうしたの?』  声が聞きたかったに決まってるだろ! と思いつつ 「別に、なんとなく」  と言ったら、てっちゃんはまた気だるそうに 『ふーん……』  と相づちを打った。  きっと仕事で疲れているんだな。ちょっと静かにしてなきゃ、悪いな。 『俺さあ、土曜日にちょっくら千葉の方面を走ろうと思うんだけど、来る?』 「行くにきまってんじゃんッ!」  ……またはしゃいでしまった。  てっちゃんは電話の向こうでちょっと笑った。 『テンション高けーな、今日。本当にどうしたの?』 「うーん、言っちゃおうかな」 『何?』  ふふふ、と笑ってから打ち明ける。 「来月の旅行の為に、インカムを買ってきたんだ」  今日、バイク用品店で買ってきたのはこれだ。ヘルメットに取り付けることで、走行中もマイクで仲間と会話をすることが出来る。道順の声かけや休憩の合図もできるし、旅の必需品なんだ。  今までは、信号で止まった時に横に並んで話すとか、そんな感じだった。でもこれで、もっと気軽に会話をしながら、ツーリングを楽しむことができる。 『マジか。じゃ、俺も用意しないとじゃん』 「ペアのを買ったから安心して」 『わかった。お代は後で払うわ』 「まけとく」  オレはニヤニヤしながら、部屋をぐるぐると歩き回った。 「オレさあ、奮発してバイク用ドライブレコーダーも買っちゃったよ」 『万が一の事故に備えて?』 「それもあるけど、旅の思い出を記録に残すためにさ!」  オレは興奮気味に言った。  てっちゃんは電話の向こうで面食らったみたいだった。 『すげーな、お前。気合の入り方が』 「てっちゃんは準備してる?」 『まだ。でも旅なんか最悪、財布と地図とパンツがありゃーなんとかなるだろ?』  何言ってんだ、てっちゃん……ワイルドすぎてますます惚れ直したぜ。  電話の向こうで、てっちゃんはケラケラと笑っている。 『アオバ、興奮してるなー』 「だって楽しみなんだもん」 『……なんか、そんなに楽しそうにしてくれると、俺も嬉しいな』  照れくさそうに、呟く声。  オレはそんなてっちゃんにキュンとした。  ああ、会いたいなあ。 『旅行はまだ先なんだからさ。興奮しすぎて夜ふかしするなよ?』 「へへ」 『じゃあ、切るよ。おやすみ』 「ん、おやすみ」  電話を切ってから、俺はスマホの画面にちゅっとキスをした。  最近これが癖になりつつあって、人がいる時にうっかりやってしまわないか、ちょっと心配なんだよね。
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