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『……もしもし?』
「ヒマにきまってんじゃんッ!」
『そうか。わざわざ電話かけてきてどうしたの?』
声が聞きたかったに決まってるだろ! と思いつつ
「別に、なんとなく」
と言ったら、てっちゃんはまた気だるそうに
『ふーん……』
と相づちを打った。
きっと仕事で疲れているんだな。ちょっと静かにしてなきゃ、悪いな。
『俺さあ、土曜日にちょっくら千葉の方面を走ろうと思うんだけど、来る?』
「行くにきまってんじゃんッ!」
……またはしゃいでしまった。
てっちゃんは電話の向こうでちょっと笑った。
『テンション高けーな、今日。本当にどうしたの?』
「うーん、言っちゃおうかな」
『何?』
ふふふ、と笑ってから打ち明ける。
「来月の旅行の為に、インカムを買ってきたんだ」
今日、バイク用品店で買ってきたのはこれだ。ヘルメットに取り付けることで、走行中もマイクで仲間と会話をすることが出来る。道順の声かけや休憩の合図もできるし、旅の必需品なんだ。
今までは、信号で止まった時に横に並んで話すとか、そんな感じだった。でもこれで、もっと気軽に会話をしながら、ツーリングを楽しむことができる。
『マジか。じゃ、俺も用意しないとじゃん』
「ペアのを買ったから安心して」
『わかった。お代は後で払うわ』
「まけとく」
オレはニヤニヤしながら、部屋をぐるぐると歩き回った。
「オレさあ、奮発してバイク用ドライブレコーダーも買っちゃったよ」
『万が一の事故に備えて?』
「それもあるけど、旅の思い出を記録に残すためにさ!」
オレは興奮気味に言った。
てっちゃんは電話の向こうで面食らったみたいだった。
『すげーな、お前。気合の入り方が』
「てっちゃんは準備してる?」
『まだ。でも旅なんか最悪、財布と地図とパンツがありゃーなんとかなるだろ?』
何言ってんだ、てっちゃん……ワイルドすぎてますます惚れ直したぜ。
電話の向こうで、てっちゃんはケラケラと笑っている。
『アオバ、興奮してるなー』
「だって楽しみなんだもん」
『……なんか、そんなに楽しそうにしてくれると、俺も嬉しいな』
照れくさそうに、呟く声。
オレはそんなてっちゃんにキュンとした。
ああ、会いたいなあ。
『旅行はまだ先なんだからさ。興奮しすぎて夜ふかしするなよ?』
「へへ」
『じゃあ、切るよ。おやすみ』
「ん、おやすみ」
電話を切ってから、俺はスマホの画面にちゅっとキスをした。
最近これが癖になりつつあって、人がいる時にうっかりやってしまわないか、ちょっと心配なんだよね。
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