第四話:傷だらけのライダー【side Aoba】

6/9
前へ
/165ページ
次へ
 * * *  突然大きなタヌキが飛び出してきたんだ、とその男は言った。それで避けようとして、転んだらしい。  オレの住んでいる所は都心にほど近く、たいして自然も無いのに、タヌキなんていったいどこでどう暮らしているんだろう。  ……っていうか、タヌキって夜行性なんだな。と、オレは救急車に揺られながらぼんやりと思った。  事故を起こした男は、自分の体がボロボロだと分かった途端、急に気弱になり「体中が痛え。俺はもう駄目だ」とか「手を握っていてくれ」とか言って、メソメソし始めた。  ショックでテンパってるんだろうなと思ったけど、なんだか放ってもおけなくて、オレは病院まで付き添ってやることにした。  レントゲンを撮った結果、肩の骨が折れて肋骨にヒビが入っていたらしい。  血の出ていた部分は、幸いにも軽症だったみたいだ。  骨を固定する為の処置を待つ間、オレはその男と待合所のソファに肩を並べていた。 「いやー、プロテクターの重要性を考えさせられるね」 「……」 「胸部プロテクターと、ライディングパンツは着用してたんだけどねー。そのおかげか大事にはいたらなかったけど」  骨が折れてるんだから十分『大事』だろう……とオレは思ったけど、黙っていた。 「肩は無防備だったからなあ。迂闊だった」 「……」 「だって肩パッドってダサいんだもん」 「……そっすね」  オレも基本的にバイクに乗る時は軽装だ。バイクは肩肘張らずに、街で気軽に乗るのが趣味なんだ。  それに、カジュアルファッションでネイキッドバイクに乗ってるライダーが、一番モテそうだし。  いや、バイクに乗ってるからって決してモテはしないし、モテる為に乗ってるわけでもないんだけど。なんにしても「モテたい」という心意気は、いい男でいる為には大事っていうか……。  でも長旅の時なんかは、体力も集中力も使うから、ちゃんとプロテクター入りのライディングジャケットを着た方がいいかもなあ。  今回の件で、オレはそう思い直し始めていた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

483人が本棚に入れています
本棚に追加