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* * *
男を見送って、それからオレも家に帰った。
気付けば土曜日の明け方になっていた。
通過するルートの途中にオレの家があるから、集合場所はオレの家ということになっていた。
あと4時間後には、てっちゃんが来てしまう。
帰宅してすぐに風呂に入って、歯を磨いた。
少しでも睡眠を取らなきゃと思ったけど、寝たら最後爆睡してしまいそうで、緊張してなかなか寝付けなかった。
そして結局、徹夜になってしまった。
それでもオレは、てっちゃんとの約束を絶対に破りたくなかったんだ。
だからコンビニに走って、眠気覚ましのドリンク剤を飲んで、それからてっちゃんを玄関で迎えたんだけど――
「お前さぁ」
「ハイ」
一睡もしていない淀んだ目に、すぐに気付かれてしまった。
仕方なく昨晩起こった出来事について説明したら、てっちゃんは深いため息をついて言った。
「仮にね、俺とお前が逆の立場だったらどう思う?」
「……ハイ」
「俺が徹夜で待ち合わせ場所にバイク転がしてきたら、お前は『オッケー。じゃあ、行きましょうか』なんて言える?」
「……言えない」
「そういう事情じゃしょうがないだろ。今日は中止だ」
当然だ。
自分でもわかってる。こんな危険な状態で、バイクに乗れるわけがないじゃないか。
それこそ、昨晩みたいに事故でも起こしたら。
傷付くのが自分だけならまだいい。人を巻き込んでしまったら――
そんな危険なことをするわけにはいかない。
でもオレは悲しくなった。
「オレ、てっちゃんと走るの楽しみにしてたのになあ……」
ヘナヘナとしゃがみこんで、頭を抱えた。
「走ろうと思えば、いつだって走れるじゃんか」
「うん」
「来月だって、一緒に旅行に行くんだし」
「そうだけどさあ」
てっちゃんの呆れたようなため息が、また聞こえる。
「……しゃーない。2ケツでゆっくり、その辺をぐるっと一周しようか。それでどう?」
オレはぱっと顔を上げて、てっちゃんを見た。
「本当に近所を一周するだけだぞ。体調が悪かったら我慢せずにすぐに言うこと。それから、手ェ離すなよ。ヨタヨタしてたら縄で括り付けるからな!」
てっちゃんは仁王立ちして、面倒臭そうに言っていたけれど、その声はなんだか優しかった。
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