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* * *
町内をぐるっと一周して、すぐにオレのマンションの前まで戻ってきた。
「目が真っ赤だぞ」
てっちゃんが苦笑いしながら言う。オレもちょっとつられて笑った。
「お人好しなところがあるよなあ、アオバって」
「そうかな」
「事故ったライダーが心配で、つい朝まで付き添っちゃったんだろ?」
「……」
「俺なら救急車呼んだら、あとはまかせちゃうけどな」
「……ゴメン」
「謝るなよ」
てっちゃんはぽんとオレの二の腕のあたりを叩いて、微笑んだ。
「緊急の時こそ、その人の本当の顔が見えるって言うじゃん。アオバは人の為に体張れるような、いい奴だって事だよ」
「てっちゃん……」
「ま、損する性格だなーとは思うけどね」
なんか、てっちゃんがいつもより優しい気がする。オレはジーンときて、また別の理由で目を赤くしてしまいそうだった。
この日は結局、それで解散になってしまった。
「ちゃんと寝ろよ」って言って、てっちゃんはすぐに帰って行った。
オレを休ませる為にそうしてくれた。その優しさが嬉しかったけど、少し寂しくもあった。
オレと違っててっちゃんは、どうしてもオレと一緒にいたい、なんて思ったりしないもんね。
そもそもてっちゃんって、他人に対してあんまり執着心がないみたいに見える。そういうアッサリしたところが、一緒にいて落ち着くところでもあるんだけど。
だけど、やっぱりもう少しだけ一緒にいたかったなあ。
「オレが寝るまで手を握ってて」なんて、冗談めかして言ってみればよかったかな。てっちゃんも、なんだかんだでお人好しだから、呆れながらもそれに付き合ってくれたかも……なんて。
そんな事を考えながら、ベッドの中で目を閉じて、オレはジェットコースターのごとき勢いで眠りに落ちていった。
せめて、てっちゃんの夢を見れたらいい。てっちゃんと一緒に走っている夢を。
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