483人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
まずは東京都の東側を出発し、埼玉県の方面へ。連休ということもあり、道路は少々混んでいる。
俺はヘルメットに取り付けたインカムの調子をチェックした。
「アオバ、聞こえる?」
「うん、聞こえる聞こえる」
「すげえな、コレ。もっと早く導入しとけばよかったわ」
走りながらでも、気軽に話せる。並んでおしゃべりしながら散歩してる時みたいに。感動的だった。
「インカムにドライブレコーダーにライディングジャケットに……なんだかんだと旅の準備で、結構金使っちゃったよ」
アオバがいかにも「トホホ」って感じの声で嘆く。
確かにバイク用品って、何気に値段が財布に優しくないんだよな。
でもそこまで気合を入れるほど、アオバはこの旅を楽しみにしていてくれたんだ。俺も思い切り楽しまなくちゃ、バチが当たる。
都道を抜け、埼玉県内に入り、国道を延々と走り抜ける。
「高速道路と違って、景色に変化があるのがいいね」
とアオバは言った。
下道ツーリングの魅力はそこだろう。道は混むし、信号に何度も止められて疲労感は積もるけど、充実感がある。
たとえば華々しいビル街、寂れた国道沿いの建物、畑や田んぼ、遠くの山。流れていく景色の全てに歴史があって、人の営みがある。
俺もほんの一瞬だけ、その風景の一部になるんだなぁなんて思いながら、俺はバイクを走らせる。
「♪フンフンフーン フフフーン――」
……さっきからアオバが、よくわからない鼻歌を歌っている。
聞いたことがあるような気もする。最近流行りのアーティストの歌だったような。名前は確か、ナントカカントカ――いや、完全にド忘れしてしまった。
「アオバ、もしかしてバイク乗ってる時はいつも歌ってんの?」
「ああ、ごめん。つい癖で!」
「いいよ、いつもどおりで。歌いたかったらどんどん歌って」
その後もアオバは会話が途切れると、時々鼻歌を歌った。そのレパートリーは滅茶苦茶で、気分が乗ると遠慮もなく大声で歌ったりもした。
アオバの歌声と共に、景色がどんどん流れていく。
バイクは孤独な乗り物だ。
そこが好きなんだ。
一人きりで風になっている間は、余計なことを考えない。わずらわしいことも忘れてしまう。
だけど、アオバと一緒に走るのは楽しい。
気を使わなくても、安心していられる。それにアオバが側ではしゃいでいるのが、逆に心地よかったりして。
不思議だな。
これが『相性』ってやつなのかな。
最初のコメントを投稿しよう!