483人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
一度休憩するために、コンビニに入った。
トイレを済ませ、それからおやつを買って駐車場に戻る。ペットボトルの麦茶をあおってから、俺は背伸びをして疲れた体をほぐした。
「ねえ、提案なんだけどさ――」
アオバがアーモンドチョコレートを頬張りながら言った。
「次の休憩まで、バイクを交換して走ってみない?」
俺はその提案に少し驚いた。
アオバは自分のバイクをすごく大事にしているから、他人にシートをまたがらせるなんてことは、きっとしないだろうと思っていたんだ。
「えっ、俺がアオバのバイクに乗ってもいいのかよ?」
「いいよ。っていうかオレも、てっちゃんのバイクに興味があったんだよね」
俺はちょっと緊張しながら、アオバのバイクの側に立った。そっとシートにまたがる。自分のバイクよりもずっしりと重い感覚。
いつもと違う乗り心地に、ドキドキしながらコンビニの駐車場を後にした。
「てっちゃん、乗り心地はどう?」
「うん……なんか、フィット感がすごくいいよ」
「こっちはいつもより車高が高くて、見晴らしが良いや」
俺が普段乗っているようなオフロードバイクは、車高が高いものがほとんどだ。ライダーの体格によっては、バイクにまたがって足を下ろしたら、踵が浮いてしまって、停車中に不安定な姿勢になる場合もある。
アオバのバイクは、車体のデザインにボリュームがある。だけどシートの高さは低くて、足付きにゆとりがあって、タンクも膝で挟みやすい。しっくりくる乗り心地だった。
そのまましばらく国道を走り、埼玉県を抜けて群馬県を跨いだ。
春の青葉の香りがする。
いつもと違う風景の中を、いつもと違う黒いバイクで駆け抜けている。なんだか不思議な感覚だった。
昼過ぎ、長野県の佐久市周辺にたどり着いた。
道の駅の駐車場に入り、ヘルメットを脱いで、フーと息を吐いた。
アオバが側に来て、嬉しそうに腕をつついてくる。
「オレのバイク、どうだった?」
「いやー良かったよ。これに乗ってたらモテそうな気がしてくるよ」
「ふっふっふ……そうだろう、そうだろう」
アオバはうんうんと自慢げに頷いていた。
俺はアオバのバイクのシートを撫でながら、その車体を改めてまじまじと眺めた。
「これ、結構カスタムしてるだろ? 二本出しカーボンマフラーってのがカッコイイよな」
「てっちゃんのバイクも良かったよ。パワーが無くてギアチェンジも忙しいけど、全力でバイクを操縦する感じが楽しいね」
「だろ?」
「カスタム無しノーマル至上主義ってとこも、てっちゃんらしくてカッコイイよ」
アオバも俺のバイクを撫でながら言う。
そんなに褒められると、照れるぜ……。
肘でつつき合った。なんだか女子高生が、お互いのファッションやメイクを「カワイイ」と言って褒め合ってる時みたいだった。
しかし女子高生なら可愛いかもしれないけど、こんなことで褒め合って、ちちくりあってる男達ってどうなんだろうか。
ウーン……と指をアゴに当てて唸っていたら、アオバがマップケースから地図を取り出して言った。
「そういえば、てっちゃんの実家って小諸だろ? ちょっと顔出してく?」
「え?」
最初のコメントを投稿しよう!