第五話:はじまりの旅【side Tetsu】

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 * * *  一度休憩するために、コンビニに入った。  トイレを済ませ、それからおやつを買って駐車場に戻る。ペットボトルの麦茶をあおってから、俺は背伸びをして疲れた体をほぐした。 「ねえ、提案なんだけどさ――」  アオバがアーモンドチョコレートを頬張りながら言った。 「次の休憩まで、バイクを交換して走ってみない?」  俺はその提案に少し驚いた。  アオバは自分のバイクをすごく大事にしているから、他人にシートをまたがらせるなんてことは、きっとしないだろうと思っていたんだ。 「えっ、俺がアオバのバイクに乗ってもいいのかよ?」 「いいよ。っていうかオレも、てっちゃんのバイクに興味があったんだよね」  俺はちょっと緊張しながら、アオバのバイクの側に立った。そっとシートにまたがる。自分のバイクよりもずっしりと重い感覚。  いつもと違う乗り心地に、ドキドキしながらコンビニの駐車場を後にした。 「てっちゃん、乗り心地はどう?」 「うん……なんか、フィット感がすごくいいよ」 「こっちはいつもより車高が高くて、見晴らしが良いや」  俺が普段乗っているようなオフロードバイクは、車高が高いものがほとんどだ。ライダーの体格によっては、バイクにまたがって足を下ろしたら、(かかと)が浮いてしまって、停車中に不安定な姿勢になる場合もある。  アオバのバイクは、車体のデザインにボリュームがある。だけどシートの高さは低くて、足付きにゆとりがあって、タンクも膝で挟みやすい。しっくりくる乗り心地だった。  そのまましばらく国道を走り、埼玉県を抜けて群馬県を跨いだ。  春の青葉の香りがする。  いつもと違う風景の中を、いつもと違う黒いバイクで駆け抜けている。なんだか不思議な感覚だった。  昼過ぎ、長野県の佐久市周辺にたどり着いた。  道の駅の駐車場に入り、ヘルメットを脱いで、フーと息を吐いた。  アオバが側に来て、嬉しそうに腕をつついてくる。 「オレのバイク、どうだった?」 「いやー良かったよ。これに乗ってたらモテそうな気がしてくるよ」 「ふっふっふ……そうだろう、そうだろう」  アオバはうんうんと自慢げに頷いていた。  俺はアオバのバイクのシートを撫でながら、その車体を改めてまじまじと眺めた。 「これ、結構カスタムしてるだろ? 二本出しカーボンマフラーってのがカッコイイよな」 「てっちゃんのバイクも良かったよ。パワーが無くてギアチェンジも忙しいけど、全力でバイクを操縦する感じが楽しいね」 「だろ?」 「カスタム無しノーマル至上主義ってとこも、てっちゃんらしくてカッコイイよ」  アオバも俺のバイクを撫でながら言う。  そんなに褒められると、照れるぜ……。  肘でつつき合った。なんだか女子高生が、お互いのファッションやメイクを「カワイイ」と言って褒め合ってる時みたいだった。  しかし女子高生なら可愛いかもしれないけど、こんなことで褒め合って、ちちくりあってる男達ってどうなんだろうか。  ウーン……と指をアゴに当てて唸っていたら、アオバがマップケースから地図を取り出して言った。 「そういえば、てっちゃんの実家って小諸だろ? ちょっと顔出してく?」 「え?」
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