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* * *
諏訪湖周辺をぐるぐると走り回って、結局宿に着く頃には、チェックイン予定時間をギリギリ越えていた。
ウェアを脱いで、畳の上にぐったりと横たわる。バイクを降りたのに、まだエンジンの振動で体が揺れているような気がする。
「疲れたぁ」
「てっちゃん、温泉入ろうよ。汗かいたし」
俺は、がばっと起き上がった。
「そうだ、旅の醍醐味と言えば温泉だなっ」
「そうそう」
温かいお湯に浸かって、疲れた体をほぐす。長時間走った甲斐があったってもんよ。
汗で湿った上着を急々とハンガーにかけ、タオルと浴衣を持った。
「ん?」
ふとアオバの顔を見て、ちょっと違和感を感じた。
「アオバ、日焼けした?」
「え?」
「顔が赤い」
その顔はやけに赤く、火照っているようだった。頬とか耳とか、さっきまではそんなに赤くなかったはずだ。
アオバは頬をさすって、「そうかあ、日焼けかもなあ」なんてぼそぼそ呟きながら、俺と目を合わせようとしない。
……変なやつ。首をひねった。
ともかく、俺達は連れ立って宿の大浴場に向かった。
脱衣所で服を脱いでいたら、視界の端で、アオバが俺の体をチラチラと見ているような気がした。
こいつはさっきから、なんなんだ?
服を全部脱いで、籠の中に収めてから隣に体を向けると、アオバはビクッと肩を震わせてから、気まずそうに頬を掻いた。
「てっちゃんって、前をタオルで隠さない人なんだねー……」
どうやら、俺が腰にタオルを巻かないことに驚いているみたいだった。
「隠すようなことか。やましいモンでもあるまいし」
「カッケー……さすが」
「やましいモンでもなけりゃ、粗末なモンでもないからな!」
腰に手を当てて、堂々と仁王立ちしてみせる。
アオバは笑っていたけど、その表情はだんだん険しくなっていった。そして俺の股間を、かなり深刻そうな顔でじっと見つめてくる。
まるで初めてナマコを見た原始人のような表情だった。
なんだ、その顔は。粗末なモンじゃないとは言ったけど、そんな深刻そうな顔するほど立派だろうか? 実はさっき、さりげなく見栄剥きしておいたのに。
一方のアオバは前にタオルを当てて、さらにその上から手でガッチリとホールドしている。俺が視線を下に向けた途端、
「先行ってていいよ。オレ、トイレ行ってから入るから」
と、急にそう告げて、アオバはそそくさと脱衣所内のトイレの方に行ってしまった。
もしや…………そんなに小さいのか。
アオバはジムにでも通っているのか、結構良い体をしていたけど、そこだけは鍛えてどうにかなるもんじゃないからなぁ。
自慢するようなことしてアオバに悪かったなと、俺は罪悪感を感じながら浴場の扉を開けた。
洗い場に腰かけて、シャワーでゆっくりと汗を流す。
頭を洗っていると、ようやくアオバがやってきて隣に座った。
妙にスッキリとした爽やかな表情で、どういうわけか、今度はタオルで隠してもいない。
コンプレックスでもあるのかと思ったけど、別に普通……むしろ立派なくらいだった。
――というか問題はそこじゃない。
「おっ……お前、マジかよそれ」
俺は動揺して、後退りしたくなった。
思わずその股関に視線が釘付けになった。アオバの下の毛は、キッチリと短く刈られていて、形も整えてある。
俺はというと、雑草生やしっぱなしの藪状態だ。見比べて、口をあんぐりと開けた。
アオバはフフンと鼻を鳴らして、キラリと白い歯を見せる。
「今どき普通だよ。エチケットってやつよ」
「そ、そうなのか?」
いい男はそんなところにも気を使っているのか。タオルは巻かない主義だなんて、自慢している場合じゃない。
カルチャーショックだ。それはもう、大ショックだった――
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