第五話:はじまりの旅【side Tetsu】

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 * * *  旅の一日目が終わろうとしている。  窓の外は満天の星空だった。  風呂も食事も済ませて、布団の上でごろごろしていると、急激に眠気に襲われた。 「ご飯美味しかったね」 「……うん」 「てっちゃん、眠そうだね」 「んー……眠い」 「疲れたもんね」 「うん、道も混んでたし……」  心地の良い疲労感にうっとりとしながらアオバを見る。  アオバは座卓に広げた地図を眺めていた。俺と目が合うと、地図をめくる手を止め、畳の上を這って俺の側にやってくる。 「まだ早いけど、もう寝ようか?」 「うん……」  アオバが俺の体の上に、ふわりと布団をかけてくれた。  暖かい。俺は目を閉じて、そのままうとうとと眠ってしまった。  そしてどれくらいの時間が経ったのか――  寝る時間が普段より早すぎたせいか、真夜中にふと目が覚めた。  薄く目を開けると、すぐ真上に人の目があった。  誰かが俺を見下ろしている。  そう理解した途端に、半分寝ぼけていた俺の意識は覚醒した。 「うわあっ!」  心臓が口から飛び出しそうになった。  思わず布団を跳ね上げて、横に半回転して身を起こした。 「あ……」  俺の顔を覗き込んでいたのは、アオバだった。  当たり前か。この状況でアオバじゃなかったら、お化けか不審者の仕業ってことになる。  アオバは強張ったような表情で、俺を見ている。 「なんだよ、もう! ずっと起きてたのかよ?!」  俺は驚きすぎて、アオバに向かって怒鳴ってしまった。 「いや、さっきトイレに起きてさ。そしたら……てっちゃんの寝相が悪かったから、布団をかけ直してたんだよ」 「……あ、悪い。俺そんなに寝相悪かった?」 「うん」  アオバは淡々と答えてから、ニコッと笑った。 「なんだ、そんなことか」と、俺は深い溜息をついた。そしたらようやく気分が落ち着いた。  ノロノロと再び布団に潜り込んで、手のひらで目元を擦った。 「あー驚いた。ちょっとしたホラーだったぜ。目ェ開けたら顔があるんだもん」 「ゴメンゴメン」  アオバも隣の布団に入り直して、苦笑いしている。  もう一度、ふうっと軽くため息をついた。  ――俺を見下ろしてくる顔か。  俺のまぶたの裏に、ぼんやりと昔の出来事がフラッシュバックした。  些細な事だし、ここ最近はずっと、記憶の彼方に忘れ去っていたんだけれど。 「……なんだか母ちゃんのこと思い出したよ」 「え?」  目元を手で覆いながらぼそぼそと呟いた。  アオバが、少しこっちに身を乗り出すような気配がする。 「子供の頃、夜寝てるとさ、時々母ちゃんが俺の顔を覗き込みに来るんだよ」 「寝顔を見に?」 「うん。いつからそうやってたのか知らないけど。夜、母ちゃんの足音が聞こえて、夜ふかしを怒られると思って寝たフリしたら、ずっと枕元に気配がしてて。そんで薄目を開けたらさ――。そういうことが、何度も何度もあったんだ」
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