*第六話:海の花火【side Aoba】

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 てっちゃんとの旅の二日目。  熱海に到着したのは昼過ぎだった。  バイクに乗っていると、膝と太ももで車体を挟んだり、足首を回してギアチェンジを繰り返すから、結構下半身に疲労が溜まるんだ。だから夕方までは足湯巡りをして疲れをほぐしたり、街の中をゆっくり走って楽しんだ。  それから一度旅館にバイクを置いて、オレはてっちゃんを散歩に誘い出した。 「波の音って、落ち着くよな」  肩を並べて浜辺を歩いていると、てっちゃんがぽつりと言った。  その視線の向こうは、綺麗な夕焼け空だった。  漫画みたいに浜辺を二人で追いかけっこしてみたり、海に向かって「青春のバカヤロー!」なんて叫んだら、きっとサマになっただろう。そんな見事な色に染まった水平線が、目の前に広がっている。 「なーアオバ、そろそろその怪しい紙袋の中身を教えてよ」  待ちきれなくなったように、てっちゃんが、オレが片手にぶら下げている紙袋を指差す。  これはオレが、てっちゃんの為にこっそり準備していたものなんだ。バイクから荷降ろしした時に、てっちゃんには「浜辺に着いたら中を見せるよ」って言ってあった。 「そうだね。もう、この辺でいいかな」  オレは「じゃじゃーん」と言って、袋の中身を取り出した。 「えっ、花火?!」 「そう花火。ネット通販で買っておいたんだ」  てっちゃんはオレの手から、手持ち花火のセットを奪って、目を丸くした。 「だって、まだ5月じゃん」 「甘いな、てっちゃん。『花火は夏にやるもの』なんて、誰も決めてないよ」  チッチッチッと、顔の前で指を左右に振る。  オレは折りたたみ式のバケツを広げて、波打ち際に水を汲みに行った。  重たくなったバケツを持って、てっちゃんの側に戻り、ガラス容器に入ったろうそくに火を付ける。  花火の束から適当に一本取って、てっちゃんに手渡すと、てっちゃんは子供みたいに目を輝かせた。 「……俺、花火で遊ぶのなんて久しぶりだよ」  てっちゃんのその顔を見て、オレは内心ガッツポーズをした。
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