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夕日は水平線の向こうにすっかり顔を隠した。
手持ち花火が次々に炎を吐き出して、網膜にカラフルな光の残像を焼き付ける。
花火の束はたくさんあったけど、あっという間に、バケツに燃えカスの山が出来ていった。
てっちゃんの楽しそうな笑顔が、火花に照らされて浮かび上がる。
その目がキラキラと輝いて、オレの方を見る度に、胸がぎゅっと苦しくなった。
昨日、温泉浴場で、初めててっちゃんの裸体を見た。
オレは多感な中学生みたいに興奮していた。服の上から何度も想像していた通りの、オレ好みの引き締まった体と、その無防備さに。
思わずトイレで一発抜いて、『これだけでも旅行に来て良かったぁー』なんて、呑気に思っていた。
その時までは、オレにもまだ余裕があったんだ。
夜になって、てっちゃんはすぐに眠ってしまった。
オレはてっちゃんの寝顔を、ずっと眺めていた。その顔があまりに無邪気で、可愛かったからだ。別に変なことしようと思ったわけじゃない。……最初は。
いつもと違う、浴衣の胸元をはだけて眠る姿を見ているうちに、だんだんと我慢ならなくなった。キスがしたくなった。結果的に、顔を近づけただけで、未遂に終わったけど。
その後てっちゃんが、突然あんな風に、オレに弱さをさらけ出してくるとは思わなかった。
てっちゃんは、他人に凭れ掛かろうとはしない人だ。
それなのに、オレに甘えてきてくれた。
嬉しかった。てっちゃんが心の扉の鍵を開けて、オレにありのままの感情をぶつけてくれたことが。
意地やプライドに縛られて、強がりで、不器用で甘え下手で――そんな、男のどうしようもなさみたいな部分に、オレは惹かれるのかもしれない。
てっちゃんのことが、愛おしくて仕方がなかった。
爆発しそうになる感情を堪えて、「寝ろ」と言った。そしたらてっちゃんは、黙ってオレの腕の中で、素直に目を閉じていた。小さい子どもみたいに。
耐えられなかった。額にキスを落としたのは、それでもオレなりに葛藤した結果だ。
てっちゃんとの思い出ができれば、それで充分だと思ってた。
今はてっちゃんへの一方的な愛情と欲望が、胸の中でどんどん膨らんで、少し苦しい。
「あーあ、もう終わっちゃた」
てっちゃんが燃え尽きた手持ち花火の持ち手を指の間で転がしながら、心から残念そうに呟く。
花火がそんなに好きだなんて、子供っぽいところもあるんだ。準備してきてよかったと、オレは安堵にも似た喜びを感じていた。
「まだ線香花火があるよ」
てっちゃんに線香花火を渡し、オレもその細いこよりの先端に火をつける。
「キレイだね」
「うん」
てっちゃんは、ぱちぱちと音を立てる花火を見つめている。
オレはてっちゃんの方ばかり見ていた。
ふっと、その頬を照らすオレンジ色の光が消える。気が付いたら、ちっとも眺めていないのに、オレの線香花火は燃え尽きていた。
「次、どっちの花火が長くもつか、競争しよ」
てっちゃんがそう言って、線香花火をもう一本渡してくる。
「よーし」
二人同時に、火薬をろうそくの炎に近づけた。
炎の中で、ぷくっと火の玉が膨らむ。ミニチュアサイズの打ち上げ花火みたいな火花が、ぱちぱちと弾けだす。
オレは自分の線香花火の先端を、「えいっ」とてっちゃんの方の火の玉にくっつけた。
「あっ、ずるいぞ!」
二つの細いこよりの先で、くっついて大きくなった火の玉は、激しく火花を散らした。
燃え上がりながら、火の玉はじりじりと膨らみ続け、ぽたりと地面に落ちて消えた。
「あはは」
「これじゃ勝負になんないだろー」
線香花火が無くなるまで、そんな風にふざけて笑い合った。
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