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「アオバは旅を楽しくするために、色々考えてくれてたんだな。俺なんか、荷物は極力減らそうとか、そんなことしか考えてなかったのに」
花火の片付けをしながら、てっちゃんが言った。
「本当にいい奴だな、アオバって。器用っていうかさ、いつも周りの人の事を考えながら行動してる」
「……」
「俺、アオバのそういうところ、本当に尊敬してるよ」
てっちゃんの態度はやけにしおらしかった。
その顔をじっと見つめたら、ちょっと気まずそうに俯いてしまう。
てっちゃんは昨晩の発言を謝るつもりで、こんなことを言い出したんだな、と感じた。もしかすると今日も一日中、ぐるぐると色んな事を考えていたのかも知れない。
オレはてっちゃんを安心させたくて、その肩をポンと叩いて微笑みかけた。
「んなことない。オレが遊びたかっただけだよ」
「またまた、そんなこと言ってさ。……もし俺が女の子だったら、こんなサプライズされたら、ちょっとキュンとしちゃうかもな」
「てっちゃんってばー。なんか、愛の告白みたいなこと言うね?」
「……ばか、ヘンな事言うなよ」
「キュンとしちゃったの?」
「ハイハイ、したした」
てっちゃんは笑って、オレの肩を叩き返した。
ヘンな事なもんか……と、少し切なくなった。
「そろそろ旅館に戻ろうか」
「うん。……なんか、雨が降りそうだな」
空を見上げると、いつの間にか上空に黒い雲が近づいてきていた。湿度を帯びた風。雨の降りそうな匂いがする。
オレはポケットからスマホを出して、天気予報を見た。
「夜、雨になるみたい。でも明日の朝には晴れるって」
「そっか。明日晴れるなら、気にすることもないか」
そう話している矢先に、頬に雨粒が落ちてきた。
オレ達は片付けた花火の燃えカスを抱えて、旅館に向かって走った。
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