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* * *
旅館に戻ったあとは、ゆっくりと温泉に浸かり、夕食も済ませた。
上げ膳据え膳でのんびり過ごせるっていうのは、本当に素晴らしい。
和室にはすでに布団も敷いてあり、あとは寝るだけの状態だった。
しかしまだ寝るには時間が早い。てっちゃんも今日は、まだ少し起きていたいと言っていた。
だからロビーの自販機でビールを買ってきて、部屋の窓辺に設置されたローテーブルで、てっちゃんと晩酌をすることにしたんだ。
外はすっかり雨。ザーザーと降り注ぐその勢いは、だんだんと激しくなってきている。春の嵐、というヤツなのかもしれない。
「明日の夜は、もう東京かあ」
てっちゃんが寂しそうに言う。
アルコールが入って、ほんのり上気した頬が色っぽい。無防備にも、足を大きく開いて椅子に腰掛けていて、浴衣の裾から片脚がちらりと見えている。
「寂しい?」
「うん。非日常感があって、すごく楽しかったから」
「そうだね。オレも寂しい」
と言いつつ、オレはてっちゃんの生脚を凝視していた。
てっちゃんは、
「しかし本当に、明日の朝には止むのか?」
なんて言いながら、眉間にしわを寄せて窓の外を眺めている。
てっちゃんは純粋に旅を楽しんでくれているのに、オレときたら、隙あらばてっちゃんをオカズにスケベなことばかり考えていて、ちっとも『いい奴』なんかじゃない。ああ、罪悪感……。
その時、窓の外がカッと光った。
「おっ!」
「うわっ!」
思わず目を閉じた次の拍子に、ドカン! と雷の音が轟いた。今のは、かなり近くに落ちたような気がする。
「あっ! あー……」
間髪入れず、てっちゃんのちょっと間の抜けた声がした。
目を開けると、てっちゃんの浴衣が、びしょぬれになっていた。すぐ足元には、ビールの缶が転がっている。
「ひー、冷てえ」
「そんなにびびったんかよ、怖がりだなあ」
「だって俺、雷苦手なんだもん。あーあ……」
てっちゃんは立ち上がり、タオル掛けに干していたハンドタオルで、すぐに濡れた椅子や床を拭いた。
「てっちゃん、自分にかかった部分は大丈夫なの?」
掃除を終えたてっちゃんは、ぶるりと震えた。
「いや、ちょっと引っ被りすぎたな。風呂場で浴衣、洗ってくる」
そう言って立ち上がる。その太ももや股間に、浴衣の生地がぴたっと張り付いていて、ドキッとした。
てっちゃんはオレの舐めるような視線には気付かずに、布団の敷かれた和室を横切り、ふすまを開けた。
部屋の出入り口と和室との間のスペースに、備え付けの小さなバスルームがある。そこで浴衣を洗うつもりらしい。
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