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「……てっちゃん、ついでにシャワーでも浴びたら?」
「ん?」
「そんなに濡れてちゃ、風邪引くよ」
「うん……そだね。じゃあちょっと温まって、それから浴衣洗って干すから。アオバは適当に飲んでてよ」
てっちゃんはそう言い残して、和室のふすまを閉めた。すぐにバスルームの扉を開ける音と、シャワーの音が聞こえてきた。
オレは立ち上がり、バスルームと和室を隔てるふすまに耳を当てた。
それからそわそわと、落ち着きなく部屋を歩き回る。
シャワーを勧めたのは、てっちゃんを一度、この部屋から追い出したくなったからだ。
少し落ち着きたかった。このままだと、タガが外れてしまいそうだった。
というよりは、タガはすでに、外れていたのかも知れない。
両手でゴシゴシと顔を擦り、視線を上げると、部屋の隅にある小さなクローゼットが目に入った。
オレは何かに憑かれたように、クローゼットに近づき、扉を開けた。
オレ達が脱いだバイクウェアが、ハンガーにかけてある。オレはてっちゃんのウェアをハンガーから外して、じっと見下ろした。
悪魔が耳元で何かを囁いた。悩んでいる時間は、数秒も無かった。
オレはてっちゃんのウェアに顔を埋めて、その匂いを思い切り吸い込んだ。
染み付いたオイル臭に、ほのかな汗の香り。それからてっちゃんの、暖かく柔らかな体臭。その匂いで肺を満たすと、とてつもない幸福感と興奮が、脳を揺さぶった。
ウェアを抱きしめて、てっちゃんを想った。
こんなことをしている自分が虚しい。だけど、ムラムラと何かがこみ上げてくる。
――オレは今、てっちゃんを抱いている。
もう一度、風呂場の気配を窺った。
シャワーの音が続いている。
ボクサーパンツの中で、オレの息子が変な位置でテントを張ってしまって、キツかった。
浴衣の前を開いて、パンツの履き口をぐいっと引っ張る。すると怒張したものが勢い良く飛び出して、腹をペちんと叩いた。
思わず目尻がヒクついた。
性欲猿だった10代の頃並の角度で、それはそそり立っていた。
再びオレの中の悪魔が姿を表す。このまま、てっちゃんの匂いを感じながら、絶頂に登り詰めたい。
しかし、てっちゃんが戻ってきてしまったら。いや、たぶんすぐイケる。大丈夫だ。でも匂いでバレるか? どうする――思考がぐるぐると、目が回りそうなほど回転する。
「……てっちゃん」
すぐ側にてっちゃんがいるのに、こんなことをしてるんだと思ったら、余計に興奮してきた。
たまらず、右手を動かし始める。
「てっちゃん……てっちゃん」
ウェアに顔を埋めて、うわ言のように何度も名前を呟く。
頭の中でてっちゃんが、求めるようにオレを抱き返した――その瞬間だった。
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