*第六話:海の花火【side Aoba】

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 シュッと鋭い音を立てて、ふすまが開いた。  心臓が口から飛び出るかと思った。  オレはウェアに鼻先を押し付けたまま、視線を動かした。 「アオバ」 「……」 「何してる」 「……」 「どういうことだ」  てっちゃんは血の気の失せた顔で、淡々と言った。  てっちゃんはまだ湿った浴衣を羽織っていた。でもその向こうで、水音もまだ続いている。混乱した。  下半身にいった血液が、頭部に逆流してくるような感覚に襲われる。オレはウェアから勢いよく顔を上げて、てっちゃんにガンを飛ばした。 「……ノックぐらいしろよ」  そして逆ギレ。 「お前、どの口でそんなこと言ってんの?」  てっちゃんのこめかみに、ブワッと青筋が立つ。めちゃくちゃ怖い。  オレはたじろいで、途端に気弱な声を出した。 「シャワー浴びるんじゃなかったの?」 「浸かりたかったから、今バスタブにお湯張ってんだよ。替えのパンツ忘れたと思って、そっと戻ってきたら――」  そこまで言って、てっちゃんは目元を手で覆った。    ため息をつき、それでもどうにか冷静さを保とうとするような声色で続ける。 「とりあえず、それ仕舞って座れ」  オレは素早くバイクウェアをクローゼットに戻した。それから畳の上に正座して、てっちゃんを見上げる。  てっちゃんはまた鬼のような形相になり、オレを指差した。 「し・ま・え!」  ハッとなった。  オレはずり下がったままのボクサーブリーフを履き直して、はだけた浴衣の前を直した。  てっちゃんはまた深くため息をついて、オレから少し離れた場所にあぐらをかいた。 「で、何してんの?」  目の前がぐらぐらと揺れるのに耐えながら、オレは静かに答えた。 「……てっちゃんの服の匂いを嗅ぎながら、抜こうとしてました」 「なんで?」 「…………」  オレが言葉に詰まると、てっちゃんは何故かケラケラと笑いだした。  それは、動揺を隠すような笑い方だった。 「アホか」 「……」 「アオバって本当、なにするかわかんねえよな」 「……」 「それにしたってお前、そりゃないだろ。なんでそういうこと思いつくんだか」  てっちゃんは笑い続けている。  混乱した末に、いつものオレの悪ふざけが始まったと思い込んで、気持ちを落ち着けようとしているみたいだった。  頭のてっぺんから、すーっと冷たいものが降りてくるような気がした。 「……てっちゃん」  絞り出した声は掠れていた。  てっちゃんが、オレを見る。 「わかんないの?」  じっとオレを見つめてくる。口元に、笑みを残したまま。  そしてオレは―― 「オレ、てっちゃんのことが好きなんだよ」  ついに、白状してしまった。
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