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その途端、てっちゃんの口元から笑みが消えた。
「……へっ?」
てっちゃんはキョトンと目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。
――ああ、ガチで何もわかってなかったんだ。
『思いもよらなかった』って顔だ。
オレが本当に、悪ノリか悪戯か気の迷いで、こそこそと友達をオカズにオナニーし始めたとでも思ったのか。なんだそりゃ。そんな滅茶苦茶な話があるかよ。
こんな情けないところまで見られたのに、何一つ気付いてもらえないなんて。オレの想いって、そんなものなのか。
それならそれで、適当に言い訳すれば、いくらでも誤魔化せたのかもしれない。今からでも、冗談にしてしまうという手はある。
「好きなんだよ」
でも止まらない。
「てっちゃんのこと、ずっと好きだったんだ」
てっちゃんの顔が、みるみる青ざめていく。
「……てっちゃんとヤリたい」
もういいや。
もうどうにでもなれ。
オレは立ち上がり、てっちゃんの側にズカズカと歩み寄った。
てっちゃんは尻もちをつくようにして、畳の上を後ずさりする。腕を伸ばし、手のひらを向けて、オレを静止しようとしてくる。
「待て、待て待て待て!」
その腕をぐっと掴む。
てっちゃんがビクッと震えた。
腕を引っ張り、そのままてっちゃんを、ずるずると布団の上まで引きずろうとする。
てっちゃんは畳の上で足を踏ん張ってそれを阻止し、オレと引っ張り合いの綱引き状態になった。
「アオバ、待てってば!」
「待てない! もういやだ!」
「ばかやろ、イヤだはこっちのセリフだ!」
「いやなんだ、何もかも嫌になるんだよ!」
叫んで、それから肩で呼吸する。
隣の部屋に聞こえたんじゃないかと、心配になってきた。
今度は押し殺すように、しかし語気を強く言い放つ。
「オレが、オレが今までどんだけ切ない思いしてきたと思ってるんだよ!」
「……」
「てっちゃんに彼女の話とか聞かされる度に、オレがどんだけ切ない思いしてたか分かるのかよ!」
「……」
「せめて想像の中で抱くぐらい、いいじゃないかよ!」
情けなくて、みじめで、泣けてきそうだ。声が震えてくる。
「一緒にいるだけでいいなんて、キレイ事だ」
「……」
「オレはてっちゃんが欲しいんだ」
てっちゃんは呆然としていた。
「隙あり」とばかりに飛びかかり、布団に押し倒す。
てっちゃんは慌ててもがいたけど、オレは腰に乗っかり体重をかけて、肩を押さえつけた。
「アオバ、待てって――」
「てっちゃん!」
押さえつけた体が、またビクッと震える。
「オレのもんになってくれ」
「……」
「てっちゃんとヤらなきゃ、オレは東京には帰れねえ!」
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