*第六話:海の花火【side Aoba】

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 その途端、てっちゃんの口元から笑みが消えた。 「……へっ?」  てっちゃんはキョトンと目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。  ――ああ、ガチで何もわかってなかったんだ。 『思いもよらなかった』って顔だ。  オレが本当に、悪ノリか悪戯か気の迷いで、こそこそと友達をオカズにオナニーし始めたとでも思ったのか。なんだそりゃ。そんな滅茶苦茶な話があるかよ。  こんな情けないところまで見られたのに、何一つ気付いてもらえないなんて。オレの想いって、そんなものなのか。  それならそれで、適当に言い訳すれば、いくらでも誤魔化せたのかもしれない。今からでも、冗談にしてしまうという手はある。 「好きなんだよ」  でも止まらない。 「てっちゃんのこと、ずっと好きだったんだ」  てっちゃんの顔が、みるみる青ざめていく。 「……てっちゃんとヤリたい」  もういいや。  もうどうにでもなれ。  オレは立ち上がり、てっちゃんの側にズカズカと歩み寄った。  てっちゃんは尻もちをつくようにして、畳の上を後ずさりする。腕を伸ばし、手のひらを向けて、オレを静止しようとしてくる。 「待て、待て待て待て!」  その腕をぐっと掴む。  てっちゃんがビクッと震えた。  腕を引っ張り、そのままてっちゃんを、ずるずると布団の上まで引きずろうとする。  てっちゃんは畳の上で足を踏ん張ってそれを阻止し、オレと引っ張り合いの綱引き状態になった。 「アオバ、待てってば!」 「待てない! もういやだ!」 「ばかやろ、イヤだはこっちのセリフだ!」 「いやなんだ、何もかも嫌になるんだよ!」  叫んで、それから肩で呼吸する。  隣の部屋に聞こえたんじゃないかと、心配になってきた。  今度は押し殺すように、しかし語気を強く言い放つ。 「オレが、オレが今までどんだけ切ない思いしてきたと思ってるんだよ!」 「……」 「てっちゃんに彼女の話とか聞かされる度に、オレがどんだけ切ない思いしてたか分かるのかよ!」 「……」 「せめて想像の中で抱くぐらい、いいじゃないかよ!」  情けなくて、みじめで、泣けてきそうだ。声が震えてくる。 「一緒にいるだけでいいなんて、キレイ事だ」 「……」 「オレはてっちゃんが欲しいんだ」  てっちゃんは呆然としていた。 「隙あり」とばかりに飛びかかり、布団に押し倒す。  てっちゃんは慌ててもがいたけど、オレは腰に乗っかり体重をかけて、肩を押さえつけた。 「アオバ、待てって――」 「てっちゃん!」  押さえつけた体が、またビクッと震える。 「オレのもんになってくれ」 「……」 「てっちゃんとヤらなきゃ、オレは東京には帰れねえ!」
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