*第六話:海の花火【side Aoba】

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 窓の外がカッと光って、落雷の音が轟いた。  てっちゃんがぎゅっと目を閉じて肩を縮こませる。  ざーざーと雨が激しく降っている。強風が窓ガラスを叩き、ガタガタと音を立てた。  ホラー映画の殺人シーンみたいで、縁起でもない。  ゆっくりとまぶたが開く。怯えたような目が、オレを見上げてくる。  その様子はなんだか小動物めいていて、ぞくぞくした。オレの心が、みるみるうちに猛獣に姿を変えていく。  てっちゃんは恐る恐る口を開いた。 「ヤるって何を」 「……」 「それってやっぱり、ケツに()れるとか、挿れられるとか、そういう――」  睨みつけるように、頷く。  てっちゃんはごくりと唾を飲み、冷静さを装ったような声で続ける。 「で、アオバは俺をどうしたいわけ?」 「オレはてっちゃんを……抱きたい」  そう言った途端、てっちゃんは首をカクンと力無く横に向けて、手のひらで目のあたりを覆った。ショックで頭が真っ白、という風な様子だ。 「ごめん、怖いこと言ってるよな」 「……」 「気持ち悪いよな」 「……気持ち悪いっていうか――」  指の隙間から、きつい眼差しが覗く。蔑む、というよりは、純粋な怒りと混乱に満ちた視線に見える。  てっちゃんは掠れた声で、ぽつぽつとたどたどしく言う。 「俺はお前の人間性とか……いい部分、たくさん知ってるし、いい奴だってこともわかってるから……そんな単純な話じゃねえんだよ」 「……」 「ただ、俺、なんていうんだろ――男同士でそういう事するっていう……概念っていうのか? そういう概念をだな、一切持たずに生きてきたもんだから……好きだとかヤリたいって言われても、やっぱりショックというか……混乱するだろ、そりゃ」  てっちゃんはやっぱりいい男だ。嫌ならさっさとオレを冷たく突き放せばいいものを。こんな状況になっても、どちらかといえばオレの事を擁護しつつ、穏便に場を収めようと努めている。  だからといって、オレはもう、引くわけにはいかなくなっていた。
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