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窓の外がカッと光って、落雷の音が轟いた。
てっちゃんがぎゅっと目を閉じて肩を縮こませる。
ざーざーと雨が激しく降っている。強風が窓ガラスを叩き、ガタガタと音を立てた。
ホラー映画の殺人シーンみたいで、縁起でもない。
ゆっくりとまぶたが開く。怯えたような目が、オレを見上げてくる。
その様子はなんだか小動物めいていて、ぞくぞくした。オレの心が、みるみるうちに猛獣に姿を変えていく。
てっちゃんは恐る恐る口を開いた。
「ヤるって何を」
「……」
「それってやっぱり、ケツに挿れるとか、挿れられるとか、そういう――」
睨みつけるように、頷く。
てっちゃんはごくりと唾を飲み、冷静さを装ったような声で続ける。
「で、アオバは俺をどうしたいわけ?」
「オレはてっちゃんを……抱きたい」
そう言った途端、てっちゃんは首をカクンと力無く横に向けて、手のひらで目のあたりを覆った。ショックで頭が真っ白、という風な様子だ。
「ごめん、怖いこと言ってるよな」
「……」
「気持ち悪いよな」
「……気持ち悪いっていうか――」
指の隙間から、きつい眼差しが覗く。蔑む、というよりは、純粋な怒りと混乱に満ちた視線に見える。
てっちゃんは掠れた声で、ぽつぽつとたどたどしく言う。
「俺はお前の人間性とか……いい部分、たくさん知ってるし、いい奴だってこともわかってるから……そんな単純な話じゃねえんだよ」
「……」
「ただ、俺、なんていうんだろ――男同士でそういう事するっていう……概念っていうのか? そういう概念をだな、一切持たずに生きてきたもんだから……好きだとかヤリたいって言われても、やっぱりショックというか……混乱するだろ、そりゃ」
てっちゃんはやっぱりいい男だ。嫌ならさっさとオレを冷たく突き放せばいいものを。こんな状況になっても、どちらかといえばオレの事を擁護しつつ、穏便に場を収めようと努めている。
だからといって、オレはもう、引くわけにはいかなくなっていた。
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