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「ちくしょう、概念がなんだ!」
てっちゃんを押さえ付けている腕に、力を込める。
「いや、わかってる……てっちゃんが男同士のセックスに恐れを抱くのは当然だ! 得体の知れない未知のものは怖い、それが人間ってもんだ!」
「……」
「しかしてっちゃん、童貞を捨てる前、そして捨てた時のことを思い出してみてくれ!」
「……」
「子供の頃、河原で拾った湿ったエロ本! 親に隠れて見たエロサイト! 兄貴の部屋にあったエロDVD! 未知なる世界への憧れと期待に胸と股間を膨らませた少年の日々がてっちゃんにもあっただろう?!」
「兄貴のDVDって……俺、長男だし……」
弱々しい声で、てっちゃんはぼそりと呟いた。
肩を掴んでいるオレの手の甲に、グロテスクなほど血管が浮き出している。
「いいから聞け! その憧れを現実のものにする時、そんなに怖かったか?! ……いや、怖かったのかもしれない! しかしてっちゃんはその時、恐れよりも大きな達成感と幸福に包まれていたんじゃないのかッ?!」
「……よく覚えてねえよ、何考えてたとか……」
てっちゃんの声は、さらに張りを失っていく。
初体験の感想が「よく覚えてない」だなんて、てっちゃんって奴はなんて淡泊なんだろう。想像以上だ。そんなの、よけいに色々なことを教え込みたくなってくるじゃないか。
「未知が何だ! 概念が何だ! そんなもの、一度知ってしまえば恐れることなんか何もない! その先にあるのは、大きな達成感と幸福感と――その点は男女でも、男同士でも女同士でも同じはずなんだよ!」
「…………」
適当な事を一気にべらべらとまくしたてたら、てっちゃんは尻込みするように、眉毛をハの字にしていた。
オレは目を光らせた。
――どうやらてっちゃんは、押しに弱い。
勢いまかせに、オレはなおも続ける。
「聞け、てっちゃん! 初めて教習所に行った時! 初めてバイクにまたがった時! 初めてバイクを発進させた時! どう思った?!」
「……」
「『なぜこんな鉄の塊が走って、転げずにコーナーを曲がれるんだ?』――戦々恐々とそう思わなかったか?!」
「……」
「しかし今はそう思わない。自然にバイクを乗りこなして、楽しいバイク人生を送っているじゃないか!」
「……」
「つまりだな――」
ガッツリと肩に指を食い込ませ、思いっきり顔を近づけて言った。
「慣れなんだよ、何事も」
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