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「……違うんだ、こんな悪徳営業マンの押し売りみたいなことがしたかったわけじゃないんだよ」
声が震えた。
目の前のてっちゃんの頬に、ぽたぽたと水滴が落ちる。
気付いたら、オレは泣いてしまっていた。我ながら情緒が不安定過ぎる。鼻をすすりながら、オレは必死になって訴えた。
「オレ、本当にてっちゃんの事が好きなんだよ」
「……」
「ずっと好きだったんだ。てっちゃんと一緒にいるだけで、本当に幸せな気持ちになれたんだ……」
「……」
「愛してるんだ。オレはてっちゃんの愛が欲しいんだ。ただヤリたいんじゃなくて、ちゃんと愛のあることがしたかったんだ」
ぽかんと開いたその唇にも、涙がぽつりと落ちて、静かに口の中に吸い込まれていく。
目元を擦って、もう一度見下ろした。
てっちゃんは完全にドン引き……いや、まるで『可哀想な人』を見るような目で、オレを見つめていた。
惨めだった。情けなくて、またじわりと涙がこみ上げた。
「おい、そんなに泣かれると、アオバが可哀想になってきちゃうよ」
「……可哀想とか言うな。侮辱だぞ」
「ち、違うよ、そんなんじゃなくて――」
てっちゃんはオレを腰に乗せたまま、上半身を起こす。
「何でアオバがこんなに苦しまなくちゃならないんだって思ったら、なんだか、俺……」
そこまで言って、てっちゃんは沈黙した。
オレは目の前にある顔を見ることが出来ず、俯いて、ひたすら頬の涙を拭っていた。
てっちゃんは、オレの肩を掴んで、思い詰めたような声で言った。
「……なあ、アオバ。俺はどうしたらいいんだよ。お前の為に、何をしてやれるんだよ」
「……」
「俺はさ、お前が困ってる時は、お前の為に何かしてやりたいって思うんだよ」
「……」
「この気持ちって、広い意味では愛だろ? 多分」
掠れる声で「……え?」と呟き、顔を上げた。
てっちゃんは一生懸命笑顔を作って、オレの顔を覗き込んだ。
「愛、あるよ。俺――」
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