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窓から差し込む光に目を細める。……朝だ。
俺は目を擦って、布団に包まったまま周りを見回した。
やっぱり今朝もアオバは部屋にいない。昨日みたいに、また朝風呂にでも行ったんだろうか。
ノロノロと体を起こして、隣を見下ろす。
二つ並んだ布団の片方は、敷いた時と一切変わらず、ぴんとシワが伸びた状態だ。それに比べ、俺が収まっている布団は、シーツも毛布もぐちゃぐちゃだった。
昨晩はほとんど裸みたいな格好のまま、アオバの腕に抱かれて眠りに落ちた。
でも今は、シワは寄ってるけど、ちゃんと浴衣を羽織っているし、下着も履いている。
あの出来事は、夢だったんじゃないかと思えてくる。
ぼんやりと考えていると、ドアが開く音がした。
部屋の出入り口と和室を隔てるふすまが開いて、バスタオルを持ったアオバが現れた。
「オハヨ、てっちゃん」
「……おはよう」
アオバはいつものように、穏やかな調子で声をかけてくる。だけど少しだけ、その笑顔はぎこちない。
シーンと空気が静まり返る。
窓の外から、チュンチュンと呑気なスズメの声だけが聞こえる。
挨拶の続きがうまく出てこなかった。少々間が空いてから、俺もアオバにぎこちなく微笑みかけた。
「……朝風呂?」
「うん。てっちゃんも行ってきたら?」
ウン、と頷いて、俺は布団から出た。
浴衣の帯を締め直し、タオル掛けにかけてあったバスタオルを持つ。
アオバとすれ違い、部屋を出ようとしたけど、なんだか顔をうまく見ることができなくて、目を逸らしてしまった。
視界の隅でアオバは、主人に怒られてしょげた柴犬みたいに、シュンとしていた気がする。
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