第七話:タンデムシート【side Tetsu】

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 事の顛末は、こういうことだ。  バイクを停めた時、俺はギヤをニュートラルに入れた。ニュートラルってのはつまり、ギヤをエンジンの動力から離した状態だ。タイヤに抵抗がかからないから、押したり引いたり、外力によって容易に車体を動かすこともできる。  普段アスファルトで固めた平地なら、エンジン始動時の迂闊な飛び出しやエンストを防ぐために、俺はこうやって停車している。  しかし、今回バイクを停めたのは、下り坂の途中だった。  その結果、自重でタイヤが回転し、バイクはズルズルと坂の下に向かって進み始め、サイドスタンドが外れて倒れてしまったのだ。  こういう場合の正解は、『ギヤをローに入れて、ギヤの抵抗力がある状態で降車』なんだ。  シフトペダルが無くちゃ、バイクを運転しようがない。  仕方なくレッカーを呼び、残りの道程はアオバのバイクで2ケツしながら、交代で走ることにした。  二人分の荷物が邪魔になり、途中で宅配便の事業所に寄って、ほとんどを自宅宛に送った。  そして俺は、悠々とアオバのタンデムシートを占領した。
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