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バイクを操縦している間は無心になれる。――いつもだったら、そうなんだ。
走りに集中するから、悩みなんてどこかにいってしまう。
考え事なんかしていたら事故ってしまうし、さっきみたいなミスの原因にもなるし。
だけど今日は、やっぱりどうしても駄目みたいだ。
こうやってタンデムシートに座っている間は、手持ち無沙汰で、余計に色々なことを考え込んでしまう。
アオバは独り言を呟くように、静かな声で歌っている。
「♪オレと君とは、卵の仲よ オレが白身で、キミを抱くキミを抱く――」
俺はその歌声に耳を傾けながら、海沿いの道から見える景色を、ぼんやりと眺めた。
アオバには友情を感じてる。
一緒にいると、楽しい。安心する。苦にならない。
俺はアオバの為に、できることは何でもしてやりたいと思う。
でも深く考えてみるとわからなくなる。
それは愛とはどう違うんだろう。
友情と愛情の境目は、一体どこにあるんだ。
アオバは、何度も何度も俺に「好きだ」と言った。俺のいったいどこを、そんなに好きなのかは分からないけど。
その『好き』は、愛しているという意味で告げられたものだった。
俺もアオバが好きだ。
その『好き』は、ずっと友情のつもりだった。今まで愛だと思ったことはなかった。
それなのに、俺はアオバと寝たんだ。
「俺なりのアオバへの友情だ」と思いながら触れ合って、全てが終わる頃にはぼんやりと「愛なんだ」と感じていた気がする。
アオバの腕に抱きしめられ、得体の知れない幸福感に包まれながら、その手で2回もイッてしまった。
俺は男と寝ることが出来る人間だったのか。
たいした嫌悪感もなく、そんなことをやってのけてしまった。俺にはそういう一面もあったということだ。
分かったことといえば、それだけだ。
それ以外は何も分からない。
好きって一体どういうことなのか、愛ってなんなのか。
「♪オレと君とは、時計の針よ いつか重なる時が来る、時が来る――」
アオバは歌い続けている。少し口ずさんでは、口笛でメロディの続きを奏でている。
アオバの背中に体を密着させて、温もりを感じながら、俺はあと何時間思い悩めばいいんだろう。
「♪諦めましたよ、どう諦めた 諦められぬと諦めた、諦めた――」
掠れたアオバの口笛と共に、水平線や、海の向こうに霞んでいる船や、木々や建物が目の前を流れ去っていく。
やがて辺りは夕焼けのオレンジ色に包まれ、東京にたどり着く頃には真っ暗になっていた。
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