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アオバはかなり興奮気味らしい。まるで野生動物が威嚇をしている時みたいだ。ガルルルと喉から唸り声さえ聞こえてきそうな勢いで絶叫する。
俺はというと、やっぱり呆然と荒い呼吸を繰り返すので精一杯だった。
「いや、遠目からだと、なにか揉めているように見えたもんだから、その――」
お巡りさんは完全に、アオバの勢いに押されている様子だ。
その泳いだ目が、ふいに俺の方を見た。
「おい、そっちの人。襲われてるわけじゃ……ないよな?」
俺は慌てて、ぶんぶんと首を横に振った。
「そ、そうか。邪魔して悪かったよ……」
お巡りさんは弱々しく何度も頷いて、歩道に倒れた自転車を起こすと、フラフラと走り去っていった。
辺りが静けさを取り戻す。
腰を抱かれたまま、俺はアオバと顔を見合わせた。
「……」
「……」
「……ははっ」
「あははっ」
なんだか、笑えてきた。
アオバもくしゃっと表情を緩ませて、声を上げて笑。以前と変わらない、ふざけた会話をしながら笑い合っている時みたいに。
ひとしきり笑って、俺はアオバの肩にトンと額を乗せた。
気付いたら、そうしていた。
アオバは戸惑ったみたいだった。笑うのをピタリとやめて、でも、おずおずと俺の背中に手を回して、そっと髪に頬を寄せてくる。
俺はアオバの肩にもたれかかったまま、目を閉じた。暖かくて、心地がいい。
旅の疲れがどっと出た。もう何も考えたくなかった。立っているのも嫌だった。
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