483人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
まだゴールデンウィークの真っ最中だけど、次の日オレは出勤日だった。休みの取引先が多いから、会社に行ったところで仕事はあまり無いんだけど。
てっちゃんは有休を取ったと言っていた。
だから早朝、オレは静かにベッドを抜け出して、てっちゃんを起こさずに仕事に行くことにした。
てっちゃんも一度家に帰るだろうとは思ったけど、今はゆっくり眠って、旅の疲れを癒やしてほしかった。
オレのスウェットを着て、静かに寝息を立てているてっちゃんのオデコに、そっとキスをした。
それから、テーブルの上に合鍵を置いて家を出た。『カギはポストの中にでも入れといて』ってメモと一緒に。
それなのに――
「おかえり」
「……」
仕事から帰ったら、てっちゃんはまだオレの家にいた。
玄関の扉を開けたらすぐそこにいたもんだから、驚いて硬直してしまった。
「おかえりってば」
「あ、うん。ただいま……」
「どしたんだよ、ぼーっとして」
家に帰らなかったのか? と思ったけど、よく見たらてっちゃんは昨日と違う服を着ている。どういうことなんだろう。
それにドアを開けた瞬間に漂ってきた、このお腹が鳴りそうになるような、いい匂いは一体――
スンスンと鼻を鳴らしているオレを見て、てっちゃんは微笑んだ。
「飯作ったんだよ。勝手に台所借りて悪いけど」
「本当? 何作ったの?」
「いや、普通にみそ汁ときんぴらと、ほうれん草の卵とじとカレイの煮付けと……」
「ま、まじかよ」
最初のコメントを投稿しよう!