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てっちゃんが指折り羅列したメニューは、オレにとっては久しぶりの、ちゃんとした和風の家庭料理だった。
すごい。思わず目をキラキラさせながら、俺は急いで革靴を脱いだ。
「お腹減ってたんだよぉ、オレ」
「じゃ、早く食べよう。さっさとそのスーツ脱いでさ」
オレは部屋に向かおうとするてっちゃんの腕を、衝動的に掴んだ。そして振り返ったその肩を壁に押し付けて、そっとキスをした。
ちゅっと軽い音を立てて唇を離すと、てっちゃんはぼんやりとした表情でオレの顔を見ていた。
つい調子に乗ってしまった。嫌われるかも――そう思ったら怖くなった。
謝ろうとして口を開きかけた。それとほとんど同じタイミングで、むっと唇が塞がれる。
オレは目を見開いた。目の前にあるものとの距離が近すぎて、寄り目になっていたかもしれない。
てっちゃんの唇が、オレの唇に重なっていた。
「……」
「……」
二人共、見つめ合ったまま黙り込んでしまった。
ドキドキしていた。
こんなの、普通の恋人同士みたいじゃないか。てっちゃんとこんなことをしているなんて、信じられない。
「……飯、食べようよ」
てっちゃんはオレのネクタイの先を、指先でもじもじといじりながら、苦笑いした。
オレは慌てて「ウン」と頷いた。
それからようやく、二人揃ってリビングに向かった。
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