*第八話:肝心な話はいつでも【side Aoba】

5/13
前へ
/165ページ
次へ
 * * * 「オフロード乗りの人って、料理上手なイメージあるわ」 「そうかあ? なんで?」  炊きたてのほかほかご飯を口に運びながら、てっちゃんと肩を並べる。  キッチンの側に設置した小さな食卓には椅子が一つしかない。多少食べ辛いけれど、テレビの前のローテーブルに皿を並べて、ソファに腰掛けて食事を始めた。 「んー、キャンプツーリングとか好きそうだし、自炊も得意なんじゃないかなと。あくまでイメージだけど」 「そりゃキャンプもいいけど。俺のコレは、子供の頃から真面目に家の手伝いをしてきたからさ」  てっちゃんが箸でカレイの煮付けをほぐしながら、ちょっと誇らしげに言う。  オレはわざとらしく、ちょっとだけ口を尖らせてみせた。 「オレだってお手伝いくらいしてたさ。でもこんな普通の、お袋の味みたいな食事って久しぶり」 「いつも何食ってんの?」 「惣菜のコロッケ、カレー、パスタ、納豆ご飯、チャーハン――」 「ふーん。じゃあ今度チャーハンでも作ってよ」 「いいよ。ねえ、オレさあ……料理上手な男って、好き」  耳元に顔を近づけてささやいたら、てっちゃんは薄っすらと頬を赤くして俯いた。  キューンと胸が苦しくなった。不整脈か。いや、違う。オレの下半身の青馬(あおうま)がまた暴れだす予兆だ。  咳払いをひとつして、てっちゃんに向き直る。 「そういえば、今日はどうして帰らなかったの?」 「いや、昼間に一回帰ったよ。洗濯したかったし、荷物片付けたり、修理の件でバイク屋に連絡もしたかったしさ」 「うん」 「でも、ゴールデンウィークはまだ終わってないだろ」  てっちゃんは気恥ずかしそうに、ぼそぼそと呟く。 「料理作って待ってたら、喜ぶかなって思ったんだよ。それに明日明後日は土日だから、アオバも休みじゃん。ずっと一緒にいたら、アオバも嬉しいのかなって」  ――どうしてそんなに健気なんだよ。  オレは箸を落としそうになった。 「いや、もし用事があるんなら、今晩のうちに帰るけどさ」 「ないよ!」 「……」 「用事なんか無いよ! 一緒にいようよ!」  思わず叫んで、飛びつくようにてっちゃんの腰を抱き寄せた。  てっちゃんは面食らったような顔で、箸を手にしたまま俺を見つめている。 「一人暮らししてるとさ、家に帰った時、部屋がシーンとしてて暗いだろ?」 「うん」 「でも今日はさ、帰ったら部屋が明るくて、いい匂いがして、『おかえり』って声がして――なんだか感動しちゃったよオレ。ありがとう、てっちゃん」 「……うん」  頬ずりして、「大好き」って耳元で囁いたら、てっちゃんはまた黙ってコクッと曖昧に頷いた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

483人が本棚に入れています
本棚に追加