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「オフロード乗りの人って、料理上手なイメージあるわ」
「そうかあ? なんで?」
炊きたてのほかほかご飯を口に運びながら、てっちゃんと肩を並べる。
キッチンの側に設置した小さな食卓には椅子が一つしかない。多少食べ辛いけれど、テレビの前のローテーブルに皿を並べて、ソファに腰掛けて食事を始めた。
「んー、キャンプツーリングとか好きそうだし、自炊も得意なんじゃないかなと。あくまでイメージだけど」
「そりゃキャンプもいいけど。俺のコレは、子供の頃から真面目に家の手伝いをしてきたからさ」
てっちゃんが箸でカレイの煮付けをほぐしながら、ちょっと誇らしげに言う。
オレはわざとらしく、ちょっとだけ口を尖らせてみせた。
「オレだってお手伝いくらいしてたさ。でもこんな普通の、お袋の味みたいな食事って久しぶり」
「いつも何食ってんの?」
「惣菜のコロッケ、カレー、パスタ、納豆ご飯、チャーハン――」
「ふーん。じゃあ今度チャーハンでも作ってよ」
「いいよ。ねえ、オレさあ……料理上手な男って、好き」
耳元に顔を近づけてささやいたら、てっちゃんは薄っすらと頬を赤くして俯いた。
キューンと胸が苦しくなった。不整脈か。いや、違う。オレの下半身の青馬がまた暴れだす予兆だ。
咳払いをひとつして、てっちゃんに向き直る。
「そういえば、今日はどうして帰らなかったの?」
「いや、昼間に一回帰ったよ。洗濯したかったし、荷物片付けたり、修理の件でバイク屋に連絡もしたかったしさ」
「うん」
「でも、ゴールデンウィークはまだ終わってないだろ」
てっちゃんは気恥ずかしそうに、ぼそぼそと呟く。
「料理作って待ってたら、喜ぶかなって思ったんだよ。それに明日明後日は土日だから、アオバも休みじゃん。ずっと一緒にいたら、アオバも嬉しいのかなって」
――どうしてそんなに健気なんだよ。
オレは箸を落としそうになった。
「いや、もし用事があるんなら、今晩のうちに帰るけどさ」
「ないよ!」
「……」
「用事なんか無いよ! 一緒にいようよ!」
思わず叫んで、飛びつくようにてっちゃんの腰を抱き寄せた。
てっちゃんは面食らったような顔で、箸を手にしたまま俺を見つめている。
「一人暮らししてるとさ、家に帰った時、部屋がシーンとしてて暗いだろ?」
「うん」
「でも今日はさ、帰ったら部屋が明るくて、いい匂いがして、『おかえり』って声がして――なんだか感動しちゃったよオレ。ありがとう、てっちゃん」
「……うん」
頬ずりして、「大好き」って耳元で囁いたら、てっちゃんはまた黙ってコクッと曖昧に頷いた。
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