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続きをしようと、再び屈み込もうとした。――それを手で阻まれた。
てっちゃんはソファの肘掛けにもたれ掛かっていた体を起こして、両手でオレの肩を押した。
「……」
「……てっちゃん、怒った?」
「……」
「ごめん、気持ち悪かった?」
てっちゃんは何も答えない。
挑発しすぎて怒らせたかなと不安になりながら、オレはてっちゃんの動向を窺った。
そして思わず目を剥いた。
てっちゃんは何度か深呼吸をして、それから何を思ったのか、オレの股間に顔を近づけてくる。
「えっ?!」
慌ててその肩を掴み、顔を股間から遠ざける。
「ま、待って、てっちゃん」
「……」
「……いいの?」
顔を覗き込むと、てっちゃんはコクッと頷いた。
素直に言えば、オレは嬉しかった。嬉しいんだけど、てっちゃんの顔はなんだかものすごく深刻そうで、全然『いいよ』って雰囲気でもなかった。
「いやいや絶対よくないでしょ。急にどうしたの?」
てっちゃんは困惑したような顔で、オレの目をチラリと見て、俯いた。
「いや、だって、喜ぶと思ったから」
「……」
なんか、今日のてっちゃんは変だ。
妙に素直で、献身的すぎて。
オレにとっては嬉しいことだけど、てっちゃんらしくない雰囲気に、ものすごく違和感を感じる。
その時ふと思い出した。
旅行の一日目の夜に聞いた、てっちゃんの話を。
『なんだか涙が出てきた。母ちゃんが不憫で、可哀想に思えて』
『俺、もっとしっかりしなきゃと思ったんだ』
『自分はちゃんとやれてるのかって、そればっかり、いつも気になって仕方がなくて』
『だんだん息が詰まって、勝手に孤独になってさ』
てっちゃんは言っていた。家族を支えなきゃと思ったら、気負ってしまって空回りしたんだって。
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