*第八話:肝心な話はいつでも【side Aoba】

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 期待されてると分かると、無理をしてキャパオーバーなことまでしようとする性分(しょうぶん)なのかもしれない。  今もきっと、オレの期待に応えようとして、必死になってるんだ。  ――ええっ? じゃあ結局、てっちゃんって本当のところ、オレをどう思ってるんだ? もしかして、本当は全部嫌なのに、無理してここまで付き合ってくれてるわけ……?  オレはぶんぶんと首を横に振って、てっちゃんに微笑みかけた。 「そんな、無理しなくていいんだよ」 「してねえよ、別に」 「てっちゃんがしたいことを、してくれればいいから」  そう言ったら、てっちゃんは動揺したように 「俺のしたいことは……アオバが喜ぶことだから……」  と言ってまた俯いた。  オレはてっちゃんを落ち着かせるように、肩を撫でた。 「うん。だったら、今は触り合うだけでいいよ」 「……」 「それだけでもオレは十分気持ちいいし、幸せだってわかったから」  ぴたりと側に寄って、てっちゃんの体を抱きしめる。 「てっちゃん、好きだよ」 「……」 「オレ、てっちゃんに『一緒にいると窮屈だ』なんて思われたくないんだ」 「……」 「いつもどおりのてっちゃんでいてよ。オレの前では、無理していい子になろうとしないでさ」  てっちゃんはオレの肩に頬を乗せて、黙っている。  しばらく沈黙が続いてから、てっちゃんはぽつりと掠れた声で呟いた。 「……んなコト言われると、余計に困るよ」 「どうして?」 「……わかんねえよ、自分でも……」  オレはてっちゃんの背中を撫でた。  そりゃそうか。てっちゃんだって、まだ色々と混乱してるんだ。オレとしては、てっちゃんとこうしていられるとすごくハッピーだけど。  大切にしなきゃ。  じゃないとてっちゃんは、いつか自由を求めてフワーッとどこかに行ってしまうかもしれない。  てっちゃんの肩にアゴを乗せて、背中を撫でていたら、ギュッと強く抱き返された。  驚いて顔を見ようとした瞬間、唇に柔らかい感触が当たった。  てっちゃんにキスされていた。求めるような口付けを。そのキスには、てっちゃんの意思が確かに込められているように感じた。  もう一度てっちゃんをソファに沈めて、覆いかぶさった。  てっちゃんは首を伸ばすようにして、オレにキスの続きをする。 「好きだ、てっちゃん……」  何度も何度も言った。  だけど、やっぱりてっちゃんは遠慮がちに頷くだけで、何も言わなかった。
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