*第八話:肝心な話はいつでも【side Aoba】

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 * * *  その後お互いに手で済ませて、シャワーを浴びに行った。  狭い浴室でシャワーを掛け合ってたら、てっちゃんは三連発でくしゃみをした。ひんやりとしたレザーのソファの上で、素っ裸でいたせいかもしれない。  風邪でも引かせたらコトだから、体を暖めてもらおうと湯船にお湯を張った。 「ゆっくり入ってて。オレ、ちょっと部屋片付けてるから」  てっちゃんを湯船に押し込んで、オレは先に浴室を出て着替えをした。  いつの間にか終わっていたDVDをケースに仕舞って、ローテーブルの上を片付ける。それからソファの足元に大量に落ちているティッシュの残骸を、ゴミ箱に放り込んでいく。  オレはこんもりと積もった白い山をじっと見下ろしてから、ゴミ箱にはめ込んでいた袋の口を縛った。  換気の為に窓を開けてから、オレはゴミ袋を持ってマンションの外に出た。 「あっ! おい!」  ちょうどエントランスを出たところで、遠くの方から聞き覚えのある声がした。  歩道に目を向けると、鋭いブレーキ音と共に、白い自転車が止まった。  例のお巡りさんが街灯の下で、息を切らしながら、オレを睨みつけている。  ぎくっとして、肩をすくめた。 「またアンタか!」 「ちょっと、おたくさあ――」  二人の声が、同じタイミングで重なった。  一瞬顔を見合わせてから、オレはふてぶてしく顔を歪めた。 「『おたく』じゃないよ」 「僕だって『アンタ』じゃないよ」 「……田中です」 「平成橋交番勤務の花月(かづき)篤郎(あつろう)だ」  花月さんというのか。お巡りさんもふてぶてしい口調で名乗ってから、自転車のスタンドを立てた。  昨晩駐輪場で、てっちゃんにキスをしているところを、ガッツリと見られたばかりだ。気まずくて、オレはもじもじと髪の毛をいじった。 「で、なんスか今日は?」 「昨日のアレ、彼氏?」 「へ? てっちゃんのことですか?」 「てっちゃんっていうのか」  何を言われるんだろうと思ったけど、花月さんはオレを軽蔑するでも叱るでもなく、淡々とてっちゃんのことを聞いてくる。 「いや、てっちゃんは彼氏っていうか……彼氏……いや、彼氏だといいんですけど……」 「え、なんでそんなに自信なさげなの?」 「……いいじゃないですか別に」  花月さんは腰に手を当てて、ふうっと溜息をついた。 「チッ。若いっていいよなあ」 「いや、若いって……お巡りさんもまだオニーサンですよね?」 「片思いの相手と旅行、とか言ってたじゃん。結局うまいことやってんじゃないの。どこで出会ったんだよ? 彼氏とは」 「てっちゃんとは、前に同じ会社に務めてたんです。そういう縁で」  そう答えたら、花月さんは涼しげな切れ長の目を丸くして、口元に手を当てた。
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