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* * *
その後お互いに手で済ませて、シャワーを浴びに行った。
狭い浴室でシャワーを掛け合ってたら、てっちゃんは三連発でくしゃみをした。ひんやりとしたレザーのソファの上で、素っ裸でいたせいかもしれない。
風邪でも引かせたらコトだから、体を暖めてもらおうと湯船にお湯を張った。
「ゆっくり入ってて。オレ、ちょっと部屋片付けてるから」
てっちゃんを湯船に押し込んで、オレは先に浴室を出て着替えをした。
いつの間にか終わっていたDVDをケースに仕舞って、ローテーブルの上を片付ける。それからソファの足元に大量に落ちているティッシュの残骸を、ゴミ箱に放り込んでいく。
オレはこんもりと積もった白い山をじっと見下ろしてから、ゴミ箱にはめ込んでいた袋の口を縛った。
換気の為に窓を開けてから、オレはゴミ袋を持ってマンションの外に出た。
「あっ! おい!」
ちょうどエントランスを出たところで、遠くの方から聞き覚えのある声がした。
歩道に目を向けると、鋭いブレーキ音と共に、白い自転車が止まった。
例のお巡りさんが街灯の下で、息を切らしながら、オレを睨みつけている。
ぎくっとして、肩をすくめた。
「またアンタか!」
「ちょっと、おたくさあ――」
二人の声が、同じタイミングで重なった。
一瞬顔を見合わせてから、オレはふてぶてしく顔を歪めた。
「『おたく』じゃないよ」
「僕だって『アンタ』じゃないよ」
「……田中です」
「平成橋交番勤務の花月篤郎だ」
花月さんというのか。お巡りさんもふてぶてしい口調で名乗ってから、自転車のスタンドを立てた。
昨晩駐輪場で、てっちゃんにキスをしているところを、ガッツリと見られたばかりだ。気まずくて、オレはもじもじと髪の毛をいじった。
「で、なんスか今日は?」
「昨日のアレ、彼氏?」
「へ? てっちゃんのことですか?」
「てっちゃんっていうのか」
何を言われるんだろうと思ったけど、花月さんはオレを軽蔑するでも叱るでもなく、淡々とてっちゃんのことを聞いてくる。
「いや、てっちゃんは彼氏っていうか……彼氏……いや、彼氏だといいんですけど……」
「え、なんでそんなに自信なさげなの?」
「……いいじゃないですか別に」
花月さんは腰に手を当てて、ふうっと溜息をついた。
「チッ。若いっていいよなあ」
「いや、若いって……お巡りさんもまだオニーサンですよね?」
「片思いの相手と旅行、とか言ってたじゃん。結局うまいことやってんじゃないの。どこで出会ったんだよ? 彼氏とは」
「てっちゃんとは、前に同じ会社に務めてたんです。そういう縁で」
そう答えたら、花月さんは涼しげな切れ長の目を丸くして、口元に手を当てた。
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