*第八話:肝心な話はいつでも【side Aoba】

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「えっ、彼氏もしかしてノンケ?」 「はあ」 「マジ? そんなことあり得る?」 「……っていうかお巡りさん、もしかして――」 「お仲間?」と、脱力しながら言いかけたら、花月さんはオレをじっと睨んで、 「こっちのことはいいんだよ! 余計な詮索をするな!」  と怒鳴った。  怒鳴ってから、急にコロッと表情を変えて、興味津々といった風なニヤついた顔で声を潜める。 「それで……ヤッたのか?」 「やった」 「いやん、えっち!」 「……」  花月さんはわざとらしく、両手で顔を覆って体をくねらせた。  最初は真面目で硬そうな印象だったけど、花月さんには意外と剽軽(ひょうきん)な一面もあるみたいだ。裏表というか、オンオフの差が激しい人なのかもしれない。 「でも、ごちゃごちゃ理屈こねて、強引に押し倒して、泣き落としたって感じです」 「マジかよ。(わり)ィ奴だな。逮捕するぞ?」 「悪い奴ですよねえ……」  オレは春の空にキラリと輝く金星を見上げた。 「てっちゃんってやっぱり、オレに同情してくれてるだけなのかなあ」  独り言みたいにぽつりと呟いたら、なんだか本気で悲しくなってきた。  花月さんはオレのしょげた態度を見て、「事情はよく知らないけど」という感じの、困惑した表情で頬を掻いた。 「いや、まあ……彼氏のホントの気持ちなんてわかんないけどさ。ノンケだったんでしょ? 同情だけで男と寝るなんて、普通、できないんじゃないの?」 「そうでしょうか……」  深く溜息をついたら、花月さんはちょっと優しい口調になって言った。 「ま、これからでしょ。頑張りなよ」 「はあ……」 「それとね、ああいう破廉恥な行為は部屋の中でやりなよ」 「すんません、てっちゃんが可愛くてつい……」 「そういうのいいから」 「じゃあ、またな」と笑って、花月さんは自転車を漕ぎ出した。  その背が消えるのを見送ってから、オレはマンションの屋内ごみ収集所に向かって歩き出した。
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