*第八話:肝心な話はいつでも【side Aoba】

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 * * *  部屋に戻ると、てっちゃんはハンドタオルを肩にかけて、ソファにもたれ掛かっていた。 「おかえり。どこ行ってたんだよ?」 「うん。ゴミ捨てと、あと……ちょっとね」  微笑むと、てっちゃんは湿った髪の毛を何度かかき上げてから、真剣な目をした。 「あのさ、アオバ」 「うん?」 「さっきのことで、話したい事があるんだけど」 「さっきのこと?」 「うん。その……誤解しないで欲しいんだ」  何を? と目くばせすると、てっちゃんは淡々とした調子で続けた。 「俺、本当に無理なんかしてないから」  ゆっくりとまばたきをして、てっちゃんを見つめる。濡れたその前髪の先から、小さな雫がぽつっと落ちるのが見えた。 「無理してるとかじゃなくて、ちゃんと俺なりに、アオバとの関係をどうしていけばいいんだろうって、一生懸命考えてるんだ」 「……」 「俺、正直言って、まだ頭ン中で色んな事混乱してると思う。でも一つハッキリしてるのは、俺はどんなことがあったって、アオバのことを嫌いになれないってことなんだ。こんなことで、お前との縁が切れるのは嫌なんだよ」  頭の中で何度も練習していたんだろうか。てっちゃんは澱みなく、スラスラと言葉を並べ続けた。 「だから俺、努力する。お前の気持ちに応えられるように。これからもアオバと、その……一緒に走っていたいから」  てっちゃんはそう言い切ってから、耳を真っ赤にして俯いた。  オレは呆然と立ち尽くしていた。時間差で、ドクンドクンと胸の鼓動が激しさを増してくる。  てっちゃんはあの夜、愛があるって言った。  やっぱりそれは嘘でも同情でもなく、本音だったのかもしれない。  だって今のはまぎれもなく、てっちゃんなりの愛の告白だった。  少なくとも、オレはそう受け取った。 「てっちゃん、ありがとう……嬉しいよ」  目が潤みそうになりながら、てっちゃんの側に膝をついて、その手を両手で握った。 「オレも努力する。この先もてっちゃんが、オレと一緒に走ると楽しいって思ってくれるように」  てっちゃんはきっと一日中――いや丸二日の間、一生懸命、今の言葉を考えていたんだ。  昨日のキスにも、そんな意味が込められていたんじゃないかと思う。  その不器用さが、心の底から愛おしく思えた。  手をギュッと握って微笑んだら、てっちゃんも安堵したように笑った。  ――大切にしよう。  オレがてっちゃんを想うように、てっちゃんがオレを想ってくれるように、頑張るんだ。
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