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「てっちゃんは田中君の彼氏なんだ?」
「かっ……」
お巡りさんは駐輪場の敷地を、ちょんちょんと指差す。
「ゴールデンウィークの時、ここで田中君とあっついディープキスを交わしてたじゃないの」
「あっ、やっぱりあの時の……?!」
ぎくっとした。
嫌な予感は正しかった。この人、5月にこの駐輪場で会ったお巡りさんだ。
あの時晒してしまった痴態を思い出し、顔がカーッと熱くなってくる。
「何? 顔、覚えてなかった? お巡りさんは覚えてたけどねー。なにせあんなアッツイアッツイ――」
「ちょ、やめてください!」
大声で制止すると、お巡りさんは一瞬言葉を止めてくれたけど、全然堪えてないみたいだ。ニヤニヤと笑いながら、ちょっとだけ声をひそめて問いかけてくる。
「で、彼氏なの?」
「かっ、彼氏って……まあその、多分……」
「多分って。おたくら、なんでそんなに自信なさげなワケ?」
自信がない――そう言われ、俺は少しムッとなって答えた。
「……彼氏です」
お巡りさんは「フーン」とアゴを掻いてから、またニヤッと口角を上げて、いたずらっぽく笑った。
「今度田中君に会ったら、言っておいてあげよう」
「ええっ?」
「じゃあね」
あっけにとられている間に、お巡りさんは自転車を漕ぎ出していた。
駐輪場から歩道に飛び出すと、交差点の手前でお巡りさんは自転車を止めて、俺の方を振り返った。
「自信持って、うまくやりなよー」
そう言って大きく手を振り、また走り出す。
俺は呆然とその背中を見送った。
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