*第九話:熱帯夜【side Tetsu】

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「てっちゃんは田中君の彼氏なんだ?」 「かっ……」  お巡りさんは駐輪場の敷地を、ちょんちょんと指差す。 「ゴールデンウィークの時、ここで田中君とあっついディープキスを交わしてたじゃないの」 「あっ、やっぱりあの時の……?!」  ぎくっとした。  嫌な予感は正しかった。この人、5月にこの駐輪場で会ったお巡りさんだ。  あの時晒してしまった痴態を思い出し、顔がカーッと熱くなってくる。 「何? 顔、覚えてなかった? お巡りさんは覚えてたけどねー。なにせあんなアッツイアッツイ――」 「ちょ、やめてください!」  大声で制止すると、お巡りさんは一瞬言葉を止めてくれたけど、全然堪えてないみたいだ。ニヤニヤと笑いながら、ちょっとだけ声をひそめて問いかけてくる。 「で、彼氏なの?」 「かっ、彼氏って……まあその、多分……」 「多分って。おたくら、なんでそんなに自信なさげなワケ?」  自信がない――そう言われ、俺は少しムッとなって答えた。 「……彼氏です」  お巡りさんは「フーン」とアゴを掻いてから、またニヤッと口角を上げて、いたずらっぽく笑った。 「今度田中君に会ったら、言っておいてあげよう」 「ええっ?」 「じゃあね」  あっけにとられている間に、お巡りさんは自転車を漕ぎ出していた。  駐輪場から歩道に飛び出すと、交差点の手前でお巡りさんは自転車を止めて、俺の方を振り返った。 「自信持って、うまくやりなよー」  そう言って大きく手を振り、また走り出す。  俺は呆然とその背中を見送った。
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