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* * *
マンションのエントランスに入り、アオバの部屋番号を呼び出した。
多分、部屋のモニターで俺の顔を確認したんだろう。インターフォンに繋がることもなく、オートロックが解除されて、自動ドアが開いた。
エレベーターに乗り、アオバの部屋の前に立つ。
改めて玄関のチャイムを押すと、すぐに扉が開いて、アオバが俺を出迎えてくれた。
「どーぞ」
俺はその姿を上から下まで眺めた。アオバはスーツ姿で、まだネクタイも締めたままだった。
「あれ、今帰ったばっかり?」
「そだよ。……てっちゃん、作業着のまま帰ってきちゃったの?」
アオバも俺の服装を、上から下までしげしげと眺めてくる。
「着替えるの面倒くさくて」
袖に印刷された会社名を指でつまんで、俺は苦笑いした。
アオバに手首を掴まれ、体を玄関の中に引き寄せられた。そのままふわっと、暖かい胸に抱かれる。
背後で扉の閉まる音がするのと同時に、俺は目を閉じた。
まだ靴も脱いでいないのに、狭い玄関のど真ん中で、何度も何度も唇を啄まれる。
大人しく、されるがままになっていると、胸や腹の奥がじわりと熱くなってくる。
ひとしきりキスを繰り返したあと、アオバは俺をぎゅっと強く抱きしめ、肩に顔を押し付けた。
そしてすうっと鼻を鳴らし
「インクの匂いがする」
と、ぽつりと言った。
アオバの職場も印刷会社なんだから、こんなインクの匂いなんか慣れっこじゃないかと思う。だけど黙って、したいようにさせておいた。
アオバはすんすんと何度も鼻を鳴らし、俺の服に染み付いた匂いを嗅いでいる。
その仕草はまるで人懐っこい犬みたいで、だんだん可愛く思えてきた。頭を撫でてやると、アオバは頬を擦り寄せて
「あー。てっちゃんとまた同じ会社で働きたいなあ」
と、ぼやいた。
「そしたら昼休みとか、隠れてこっそりちゅーできるのに」
「……俺はさせないよ、そんなこと」
「真面目だなあ、てっちゃんは。人生、もっと抜いていかないと疲れちゃうよ」
アオバはそう言って、また唇にちゅっと軽いキスを落とす。そして流れるように俺の耳元に唇を近づけた。
「……こっちもあとで抜いてあげる」
囁き、くすぐるように股間を揉んでくる。
いつもの悪ふざけが始まった。
だけどそれだけで、キスで高まった身体の熱が、下半身に向かいそうになる。俺は誤魔化すように笑って、アオバの尻を思い切り叩いた。
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