夜の訪問者

11/12
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 十分に食事をとると、家の外が明るくなりはじめていた。 『もう少ししたら入浴して来るけど、君はどうする?』  そう言うと少女はスプーンを銜えたままこちらを見た。 「ろふろはるのれふは?」  口にモノが入った状態で喋らないで欲しい。  少女が温泉を見たがったので連れて行くことにした。風呂場に行くには小屋から100メートルほどの距離があり、水辺なので野生動物にも注意が必要だ。 『ところで、君は何と呼べばいいんだい?』 「キコエル…この姿の時はキコと呼んでください」  なるほど。エルとは昔の言葉で神という意味だ。キコだった時に徳を積んで天使となり、エルという文字を賜ったのかもしれない。 『ここだよ』  湯気を見た途端にキコの表情が変わった。温泉は河川に削られた岩肌から染み出している。これを見つけたのは本当に偶然だった。その時に僕は、周囲の草木を退け、裸で座れるように石を並べて湯舟とした。動物の毛が落ちていることもあるため、僕の居ないときに入浴している者がいるのかもしれない。  露天風呂に川の水を入れ、湯加減を調整していたらキコは言った。 「あの…私も入っていいですか?」  都市部では男女混浴の風呂屋もあると聞くが、仮にもシスターと一緒に入るのは気が引ける。     
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!