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十分に食事をとると、家の外が明るくなりはじめていた。
『もう少ししたら入浴して来るけど、君はどうする?』
そう言うと少女はスプーンを銜えたままこちらを見た。
「ろふろはるのれふは?」
口にモノが入った状態で喋らないで欲しい。
少女が温泉を見たがったので連れて行くことにした。風呂場に行くには小屋から100メートルほどの距離があり、水辺なので野生動物にも注意が必要だ。
『ところで、君は何と呼べばいいんだい?』
「キコエル…この姿の時はキコと呼んでください」
なるほど。エルとは昔の言葉で神という意味だ。キコだった時に徳を積んで天使となり、エルという文字を賜ったのかもしれない。
『ここだよ』
湯気を見た途端にキコの表情が変わった。温泉は河川に削られた岩肌から染み出している。これを見つけたのは本当に偶然だった。その時に僕は、周囲の草木を退け、裸で座れるように石を並べて湯舟とした。動物の毛が落ちていることもあるため、僕の居ないときに入浴している者がいるのかもしれない。
露天風呂に川の水を入れ、湯加減を調整していたらキコは言った。
「あの…私も入っていいですか?」
都市部では男女混浴の風呂屋もあると聞くが、仮にもシスターと一緒に入るのは気が引ける。
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