狼族の忌み子

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 岩塩袋と果実袋を背負うと、僕はゆっくりとした足取りで山を下り始めた。道幅は狭く、獣道のような所をひたすら進んで行く。  すると、藪が揺れた。イノシシや犬にしては揺れが大きい。まさか、という言葉をかみ砕くと、反射的につるはしをしっかり握った。  姿を見せたのは、黒く、四つん這いに立つ大柄の動物だった。単にクマというとたったの2文字だが、実際に目の当たりにすると、その言葉の意味をひしひしと感じる。  熊もまさか僕と遭遇するとは思わなかったらしい。表情を戻すとすぐに牙をむいた。ゆっくりと後ろに下がろうとしたが、熊は勢いよく向かってくる。 ――苦戦は免れない  そう思うとつるはしが揺れた。熊はまっすぐこちらに…。  おや、僕を避けるように通り過ぎていく。思わず拍子抜けしてしまったが、同時に胸も撫で下ろした。今日ばかりは"魔狼の呪い"に感謝しないといけない。  獣道を下っていくと、今度は木の上から小鳥の鳴き声が聞こえて来た。ピーピーと甲高い声で叫び、親鳥に餌をねだっている。何ともほほえましい光景だが、彼らは僕の姿に気付くと静まり返ってしまった。  親鳥はと言えば、巣から飛び立って自分に意識を向けようとしている。 『大丈夫だよ。今日は大漁だったから巣を襲ったりはしない』  そう言いながら巣を通り過ぎると、親鳥も戻って子育てを再開した。 『家族か…』  僕に名はない。幼い頃、両親に捨てられたため、教会直営の孤児院で育った。  そこでも、この赤黒い毛並みは気味悪がられた。理由はわかる。伝説の魔狼の挿絵にそっくりだし、動物にも恐れられる。自分ですら気味が悪いと思った。  そして12の時。孤児院は魔物に襲われた。院長も保母も子供たちも助からなかったが、僕だけは生き残った。  それ以来、僕はカースド・シングルと呼ばれている。
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