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家のドアを開くと、そこには4歳になった男の子が「パパ!」と叫びながら駆け寄って来た。毛並みがどことなく僕に似た子だ。部屋の奥に目をやると、マルチ…僕の妻は生まれたばかりの娘をあやしていた。
「あなた、今度キコエルさんとアマエルさんが来るそうよ」
『2人とも、上手くやってるかな?』
キコとアマは、あの騒動の直後に天界に帰った。どうやら魔王との戦の応援に呼ばれたらしい。ここに来るということは休暇が出たということだろうか。
『まとまった休暇だと心配だな。戦いの激しい場所も多いんだろう?』
「休暇は3日みたい。夏に寝ずの任務があったからその埋め合わせだって」
『なるほど』
つるはしや手袋を置くと、妻は皿に食事を持ってテーブルに置いた。
「新しい坑道はどう?」
『うーん…しばらくの間は大丈夫だと思うけど、いつかは使い切ってしまうだろうね』
腰を下ろすと、息子は僕の側に駆け寄って来た。こうしてみると毛の色合いはだいぶ違う。僕の方が赤い色に近く…いや、元々は僕もこんな色をしていた。
「パパー、なにかおはなししてー!」
『そうだね…』
僕は少ない言葉を紡ごうと意識を集中した。
カースド・シングル。このある種の呪いを彼に伝えなければならない。"力"に頼れば頼るほど毛並みは赤くなり、やがて人間ではなくなってしまうだろう。
『それじゃあ…』
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