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狼族の忌み子
これは塩だ。もう一度言う、これは塩だ。
魔物の血でも吸ったかのように赤黒く、僕の毛並みとよく似た色合いだが、品質は保証する。決して悪魔の粉などと言って粗末にしないように。
僕はつるはしを背負い直すと意気揚々と洞窟から出た。紅葉を始めた山々と樹海が見える。
『早速、お客さんか』
僕はそう言いながら見上げた。崖上にはグリフォンの姿があり、翼を広げて舞い降りてきた。その雄々しい姿に惚れ惚れしてしまう。鷹のような精悍な顔つきと、肉付きの良い鳥の前足と獅子のような胴体と尻尾。彼こそグリフォンの長。統領だ。
統領は姿勢を正すと、視線は僕より高い位置に来た。全長は185センチメートルといったところだろう。
『統領!』
彼は木の実が入った麻袋を僕の前に投げた。ただ、その量は普段より少ない。
『最近少ないな。木々が実を付けないのか…』
そう囁くと、統領は深刻そうに頷いた。
『神々の戦争が近い…ということかな?』
統領は唸り声をあげながらこちらを見た。怒っている感じではない。彼も同感のようだ。
『とにかくありがとう。これでいいかい?』
麻袋から全ての木の実を取り出すと、代わりに5つほど岩塩の欠片を入れて手渡した。間もなく、彼は翼を広げて飛び去った。
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