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『先に入ってよ。獣が来ないように見張ってる』
「ありがとうございます」
布切れを渡すと岩をよじ登った。ここは3・4メートルほどの絶壁になっているので、何かが近づいて来たらすぐにわかる絶好の見張り場所だ。
ちょうど正面は東側で、白々と夜が明けはじめている。
『大自然に囲まれて朝風呂か…。考えてみれば、普通の人では味わえない贅沢だな』
ふと朝焼けを眺めていると思いだした。
じきに神々の戦争が始まるという。今までは王国が税金を上げるための方便だと思いたかったが、目の前に天使が姿を見せたのだから、信じざるを得ない。
だとすると、近々訪れる戦争の朝、どういう朝焼けが姿を見せるのだろう。語り継がれる伝説のように、大森林も家々も焼け、人間も動物も炭と化し、広大な湖や川も干上がってしまうのだろうか。
朝日が顔をしっかりと覗かせると、キコが声を上げた。
「ありがとー、交代しよー!」
まあ、いつ来るのかもわからない未来の話だ。僕は岩を伝って慎重に降りた。
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