夜の訪問者

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夜の訪問者

 山を下ること1時間。その道幅は広くしっかりとした道になり始めた。よく見ると人の足跡と家畜の足跡が見える。 『ああ、豚農家たちか…』  僕は狼族なので、すぐに家畜農家と豚が通ったのだとわかった。収穫の季節に近づくと、家畜農家は豚たちにドングリや木の実をたっぷりと食べさせるのだ。丸々を太らせてから、ソーセージに加工して冬をしのぐ。その際には大量の塩が必要になるので、タイミングよく持って行くとありがたがられる。  僕はその道を再び外れると獣道に入った。道沿いに進み、やがてマイホームが姿を見せた。  家と言っても麓の村のようなきちんとしたモノではない。拾い集めた廃材を縄で縛っただけのぼろ屋だ。ドアは運よく捨てられていたものだが、鍵は壊れている。  防犯のぼの字もない有様だが、私物が盗難に遭ったことは一度としてない。恐らく理由はこの立て札だろう。 【カースド・シングルの小屋。ご用の方はベルを鳴らして切り株でお待ち下さい】  これだけで防犯対策は万全だ。現に、僕の家にはネズミ一匹、いや、蚊ですら寄ってこない。 『さて』  僕はドアを開いた。     
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