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 「エンパス、っていうんだって」  光平は自分のことをまるで他人事のようにそう言った。  ブランコの後ろから指す夕日は、二人の影を長く伸ばしている。さっきまでこの公園にいた子供たちも皆家族の待つ家へ帰り、今はブランコに座る充と光平だけが残っていた。  あれから数日が経っていた。  父を失った充の悲しみはまだ消えはしないが、それでもあの日光平とこの公園で散々泣いたことで、充の心は立ち直ろうと前を向き始めていた。  あの日以来、二人は少しずつ話すようになっていた。それまで教室でも誰とも話さなかった光平だったが、最近は充と学校帰りにこうして公園に寄り道していくことも多い。  それでもまだ光平がクラスに馴染んだということはなかったようだった。  転校生ということだけではなく、充の目にはむしろ、光平の方からなるべくクラスメートと関わるのを避けているように映っていた。  「他の奴らとも仲良くしたらいいのに。タカとか健人とかいい奴らだぞ」  「うん、ありがとう。でも、ごめん・・・嫌いとかそういうのじゃないんだ」  俯いたまま少し身体を前後に揺らすと、光平のブランコがキイと音を立てる。  「人の気持ちに近付きすぎるのが怖いんだ」  「気持ち?」  そうして光平の口から出たのは、聞き覚えのない『エンパス』という言葉だった。充の小さな頭はそれに近い知っている言葉を探しだす。  「算数で使うやつ、じゃなくて?」  「コンパスじゃないよ。エンパス。僕も初めて聞いたんだけどね」  おじいちゃんがね、知り合いのお医者さんから聞いたんだって。光平はそう言った。  「いつからとかはもう覚えてないんだけど。最初は、誰かが怒られてるのを見るのがすごく嫌だとかそんなことだったと思う」  「誰か?」  「そう。自分以外の誰か。自分が怒られてるわけじゃないのに、すごく悲しくなるんだ」  まるで―――自分のことのように。  「それから、どんどんそういうことが増えていって。人の気持ちが自分の中に入ってきちゃうような・・・そうすると近くにいる人がどう思ってるかとかもわかっちゃうようになってきて」  「すごいじゃん!超能力者みてー!」  漫画で見たような能力に無邪気に興奮する充に対し、光平は泣き笑いのような表情を浮かべて言った。  「そんないいものじゃないよ。というか、最悪だよ。最低。こんなの無くなればいいんだ」  「そうなの?」 
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